14年後の夏に、意外な新展開が訪れた。

 1998年7月25日に起きた「和歌山カレー毒物混入事件」で殺人罪などに問われ、2009年に最高裁で死刑が確定した林真須美死刑囚(51)は現在、再審請求中だ。その真須美死刑囚から届いた「書類」を手に、夫の健治氏(67)が困惑した表情を浮かべていた。

「いくら獄中に情報がないからというて、こんなことって、恥ずかしい。申し訳ない限りや」

 その書類は、なんと大阪地裁から届いた訴状だった。真須美死刑囚はカレー事件の裁判で健治氏が虚偽の証言をしたとして、100万円の損害賠償を求めて夫を提訴したのである。

 本誌の調べでは、真須美死刑囚はマスコミ関係者やカレー事件の地元住民、生命保険会社に勤務していたときの同僚など、計50人ほどを相手に訴訟を起こしているようだ。中には、すでに公判期日が設定された案件もあるという。だが、獄中の真須美死刑囚は弁護士も立てていないため、訴訟の遂行は難しい。

 獄中訴訟といえば、かつてメディアを相手に500件以上の訴訟を起こした「ロス疑惑」 の三浦和義氏(08年に自殺)が思い浮かぶ。三浦氏は生前、真須美死刑囚を支援しており、こう語っていた。

「真須美さんもマスコミを訴えればいい。手紙で方法を書いておいたし、面会でもそう伝えた」

 これに対して真須美死刑囚も、

「三浦の兄やん、民事で訴えちゃるって、ええこと教えてくれた」

 と好意的に反応していたのである。真須美死刑囚は三浦氏の"教え"を実行に移したのだろうか。

※週刊朝日 2012年8月3日号