──起訴後は一度も取り調べをされることはなく、保釈までの時間を150冊もの本を読んで過ごした。勾留中に村木氏がつけていた日記にはたびたび本の感想が書かれている。

<7月3日 サマータイム・ブルース サラ・パレツキー ハヤカワ文庫 V・I・ウォーショースキー シリーズ第1作

(中略)

「あなたが何をしたって、あるいはあなたに何の罪もなくたって、生きていれば、多くのことが降りかかってくるわ。だけど、それらの出来事をどういう形で人生の一部に加えるかはあなたが決めること」

主人公が兄を亡くし、冷たい家族のなかでキ然とがんばる少女ジルに言うことば>

<7月6日 人間だもの 相田みつを 角川文庫 

相田みつをはあまりにベタで避けてきたが、(ギャグに使われていたのをみたことがあるし......)読んでおもしろかった。とりわけ

弱きもの人間

欲深きもの にんげん

偽り多きもの にんげん

そして人間のわたし

というのを見て、今回の登場人物にあてはめると、あまりにもぴったりきたので

その洞察力に感服した>

 この相田みつをさんの詩はかなり慰めになりましたね。私は塩田幸雄さん(当時部長で現・小豆島町長)や上村さんは「弱きもの」だと思うんです。じゃあ、検事はどれに当たるんだろう?と思い、弁護団の先生に聞いたことがあるんです。そしたら、その先生は「うーん。欲深きものじゃないかな。結局は出世欲だから」っておっしゃっていましたね。

──2010年1月27日、大阪地裁で裁判が始まった。当時は共犯者とされた事件の関係者は、この時点で村木氏の事件への関与を認める供述調書に署名していた。ただ一人、無罪を訴えて闘うことに不安はなかったのだろうか。

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