第20回 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズと、その周辺 |AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

第20回 トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズと、その周辺

文・大友博

プロフィール   バックナンバー   ミュージック・ストリート トップへ

このエントリーをはてなブックマークに追加

 イーグルスが『ホテル・カリフォルニア』を発表したのは、1976年暮れのことだ。翌年春にはタイトル曲が全米1位を記録。アルバム自体の売上も、発売からわずか1年後には、アメリカだけで600万枚に達したという。当時としては、まさに驚異的な数字だ。すべての人が歌詞に込められた想いを受け止めていたとは思えないが、ともかくそのようにして頂点に立った彼らは、しかしその後、次第にパワーとメンバー間の絆を失っていき、80年代を迎えるとすぐ、いったん表舞台から姿を消している。

 そのイーグルスと入れ替わるようにして人気と評価を高めていき、80年代前半にはロサンゼルスの音楽を代表する存在となったのが、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズだ。制作現場の急速なデジタル化やヴィジュアル要素偏重といったトレンドに流されことがなかったことも、重要なポイントとして指摘しておこう。

《ブレイクダウン》や《アメリカン・ガール》のヒットを生んだ最初のアルバム『トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ』のリリースは『ホテル・カリフォルニア』とほぼ同時期。82年前後にはもうロック・チャートの常連となっていたので、イーグルスとハートブレイカーズは「バトンを渡された/受け取った」仲といってもいいかもしれないが、二つのバンドの縁は、それだけではなかった。

 1950年、フロリダ州北部のゲインズヴィルで生まれたペティは、エルヴィス・プレスリーやビートルズの影響で早くから音楽の道を目指すようになり、ハイスクール時代には、ローカル・ヒーローの一人で、のちにイーグスのメンバーとなるドン・フェルダーからギターを習っている。また、20歳のときに結成したマッドクラッチというバンドのギタリスト、トム・リードンはイーグルス初期のメンバー、バーニー・リードンの弟だった。

 結成当時のマッドクラッチは、ペティ、リードン、マイク・キャンベル(ギター)、ランドール・マーシュ(ドラムス)、ジム・レネハン(ヴォーカル)という編成で、ペティはベースとヴォーカルを担当。その後、若干のメンバー交代をへてベンモント・テンチ(キーボード)も加えた彼らは、グレインズヴィル周辺でのライヴ活動によって注目されるようになり、リオン・ラッセルらが設立したシェルター・レコードと契約。1974年、ロサンゼルスに拠点を移している。

 しかし、このプロジェクトが実を結ぶことはなく、マッドクラッチは解散。ペティ、キャンベル、テンチが残り、ゲインズヴィル時代の音楽仲間だったスタン・リンチ(ドラムス)とロン・ブレア(ベース)を加え、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズを始動させている。つまり、マッドクラッチこそはハートブレイカーズの原点だったわけであり、そのことは、ふたたび絆を取り戻したペティ、リードン、キャンベル、マーシュ、テンチの5人が2008年に発表したアルバム『マッドクラッチ』で確認できるはずだ。

 80年代以降、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは着実なペースで上質なアルバムを送り出し、ペティはこれまでに3枚のソロ作品も発表。並行して各メンバーが、かつてのリトル・フィートのようにスタジオ・ミュージックとしても活躍し、スティーヴィー・ニックスやドン・ヘンリーとの交流はとりわけよく知られている。

 86年から87年にかけてはボブ・ディランのツアーにバック・バンドとして参加し、来日公演にも同行した(これ以降、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズは日本に来ていない)。ペティは、少年時代に大きな影響を受けたビートルズのジョージ・ハリスンからも認められ、こういった活動や人脈が、ディラン、ハリスン、ペティ、ロイ・オービソン、ジェフ・リンの5人によるスーパーグループ、トラヴェリング・フィルベリーズの結成につながっている。 [次回6/1(水)更新予定]


(更新 2016.5.25 )


バックナンバー   コラム一覧   ミュージック・ストリート トップへ

このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

あわせて読みたい あわせて読みたい