私が指導で入っている、こどもミュージカルの休憩時間の一コマ。歌う時は「疲れた?」って顔になるのに、休憩の時はみんなアクティブ。こどもって基本元気。こども時代って大切。だから責任もヒシヒシ (撮影/谷川賢作)
私が指導で入っている、こどもミュージカルの休憩時間の一コマ。歌う時は「疲れた?」って顔になるのに、休憩の時はみんなアクティブ。こどもって基本元気。こども時代って大切。だから責任もヒシヒシ (撮影/谷川賢作)

 その昔、まだ私が20になるかならんかの頃、南浦和の某ライブハウスでハコに入っていた時のことです。このライブハウスは浦和の某大病院の精神科のトップのお医者様が、ミュージシャンの卵の息子さんのために、ボンっ!と作ったもので、駅前のビルの5階の、富士山の溶岩なども使った、すんばらしいゴージャスなお店。ここではその息子さんがバンマスで、営業関係なく毎夜好き勝手にジャズを演奏していて、オーナーも、騒いでいて演奏聴いていない気に入らない客がいたりすると、羽交い締めにして追い出しちゃうような、すんごいところでした!

 ある日。オーナーの友人の某“大物の呼び屋さん”の方が店に遊びに来ました。私はたまたまその時はリハをしていて、休憩時間に、わさわさとせわしなくカップヌードルを食べていたら「谷川く~ん。カップヌードルなんて食べてるようじゃ、いい音楽できないよ。君たち、いくら若いったってアーティストなんだよ。だめだよ。そんなビンボーくさいの」と、のたまったのでした。その時の私はなにも反論できずに、「はい。すみません……」とかボソボソつぶやきながら、真っ赤な顔して大慌てでカップヌードルをかっこんだのでした。

 その後、その“大物呼び屋さん”があの伝説の名ジャズ歌手、サラ・ヴォーンさんを突然、店に連れていらっしゃいました。銀座あたりで公演終了して「なんか、おもしろいとこないの? もう普通に打ち上がんのも飽きちゃった」とかなんとか、ヴォーンさんに言われたのでしょうか。「タクシーですっ飛ばしてきた」というその“呼び屋さん”は「君たち若いミュージシャンに会わせたかったんだよ!」と言ったのです。そう、無頼で愛情ある人だったのです。前出のカップヌードル発言も彼にとっては愛情からの発言。余計なお世話と思うのがまちがい。昔はそういう人いっぱいいた。

 ところがヴォーンさん。店に入ってくるやいなや、ピアノを弾いていた私を見て腹を抱えて大笑い。周りの人に早口の英語で「#$%&!」。どうやら「日本のこんな田舎に、こんな隠れ家的なモダンな作りのライブハウスがあって、なんとピアノはベーゼンドルファー。極めつけはアジア人のこどもがジャズらしきものを弾いている。ああおかし~ったらありゃしない。あっはっは!」とのことだったようです。はい。当時20になるかならんかの私。童顔で高校生くらいに見られていて「ぼうや、いくつ? あらま~ ジャズ好きなの。あら~そうなの~あっはっは~」とヴォーンさん上機嫌とまらない。

 なぜかあまりいやな感じはせず、こちらはこちらで、レコードの中のすんごい名プレイヤーがいきなり目の前に現れたことに度肝をぬかれていました。

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