第77回 『クロスローズ・リヴィジテッド』エリック・クラプトン&ゲスト |AERA dot. (アエラドット)

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第77回 『クロスローズ・リヴィジテッド』エリック・クラプトン&ゲスト

文・大友博

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 2016年4月、日本武道館で5夜限定特別公演を行なったエリック・クラプトンは、翌月、充実した仕上がりのオリジナル・アルバム『アイ・スティル・ドゥ』を発表している。71歳という年齢が信じられないほどの意欲的な姿勢を示していたわけだが、6月に入るとすぐ、英米のいくつかの音楽サイトに「末梢神経障害が原因でクラプトンはもうギターが弾けないかもしれない」という記事が掲載された。昨年から背中や足に強い電気ショック的な痛みを感じるようになったのだという。

 ご覧なった方も多いと思うが、『アイ・スティル・ドゥ』のジャケット内側には、指先部分を切りとったような手袋をしてギターを弾く、やや痛々しい感じの写真が載せられている。また武道館では、全日、ゆったりとしたジャージでステージに立っていた。「楽だから」と笑っていたが、いろいろと痛みを抱え、それを乗り越えてのステージだったのだろう。

 ただし、それらの記事での発言を読むかぎり、彼は、現実はきちんと受け止めつつ、そのうえで、これからも自然体で音楽と向きあっていこうとしているようだ。多少、過剰に伝えられている部分もある。個人的には「まだまだやるに違いない」と思っているのだが、ちょうどそんな時期に、3枚組のアルバムが届けられた。タイトルは『クロスローズ・リヴィジテッド』。ほぼ10年にわたって熱心に取り組んだプロジェクト、クロスローズ・ギター・フェスティヴァルを、彼自身のプロデュースでまとめたライヴ作品だ。

 よく知られているとおり、クラプトンは、60年代後半から70年代初頭にかけてドラッグに深く依存した日々を送り、その地獄から抜け出したあとは、代替物としてのアルコールに溺れていった。しかしその後、長い時間をかけてクリーンな身体を取り戻すと、驚異的なヒットを記録した『アンプラグド』などによってあらためて頂点に立ったあと、カリブ海のアンティグアに、更生施設クロスローズ・センターの設立している。本性の意味でのセレブリティからの社会への返礼と呼んでもいいだろう。

 クロスローズ・ギター・フェスティヴァルは同センターを経営面でサポートするために企画された音楽イベントで、04年から13年にかけて計4回行なわれている。主催者として大きな責任も背負い込んだクラプトンは、ギター・オークションも行ない、その音楽的歩みを支えてきた名器の大半を手放した。まさに「身を切って」という印象だが、そういったスタンスを守りながら彼は、ギターという楽器の魅力と可能性、そのシンプルでしかも奥の深い楽器によって結ばれたミュージシャンたちの絆のようなものをあらためて広く伝えることにもこだわってきた。

 初回はテキサス州ダラスのコットン・ボウル、2回目と3回目はシカゴ郊外のトヨタ・パーク、4回目はマディソン・スクエア・ガーデン。この一連のコンサートでクラプトンは、B.B.キングやバディ・ガイをはじめとする伝説的ブルースマンと共演し、J.J.ケイルやスティーヴ・ウィンウッド、ロビー・ロバートソンといった旧友との再合流をはたし、サニー・ランドレスなど不当とも思えるほど過小評価されているギタリストにスポットを当て、そして、ジョン・メイヤーやゲイリー・クラーク・ジュニアなど若い実力派たちにも機会を与えてきた。

『クロスローズ・リヴィジテッド』には、そのようにして継続されてきたフェスティヴァルから厳選された40トラック/41曲が最新リマスター音源で収められている。4回のフェスティヴァルはすべて映像作品化されているが、やはり、きちんとしたオーディオ作品も残したかったのだろう。大量の音源の洗い出しとリマスター作業を通じて、クラプトンはまた、次のステップに向けたやる気を深めたに違いない。


(更新 2016.7. 6 )


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プロフィール

大友 博(おおとも・ひろし)

 1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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