『Teenage Stan / Vol.2 : 1946』
『Teenage Stan / Vol.2 : 1946』
『ズート・シムズ・クァルテッツ+2』
『ズート・シムズ・クァルテッツ+2』
『Sonny Rollins With Mjq』
『Sonny Rollins With Mjq』
『New Miles Davis Quartet 』
『New Miles Davis Quartet 』

●スタン・ゲッツ(1927‐1991)

白人屈指のインプロヴァイザー

 いち早くバップ奏法を確立したデクスター・ゴードン(愛称デックス)は多くの奏者がモデルにしたが、早々に吸収され尽くすことにもなった。そもそもネタ(レスター・ヤングとチャーリー・パーカーの融合)は割れていたわけで、無理もない。当のデックスですら長期低迷に陥った。40年代の末、デックスと入れ替わるように、一群の白人奏者が表舞台に登場してくる。彼らは一様にトーンもフレーズもレスターに準じたスタイルで、クール・ジャズをになった。その筆頭が白人屈指のインプロヴァイザー、スタン・ゲッツだ。

 フィラデルフィアで生まれ、15歳でプロ入りし、ジャック・ティーガーデン楽団(43年)、スタン・ケントン楽団(44年~45年)、ベニー・グッドマン楽団(45年~46年)などの名門を渡り歩く。戦時下の団員不足という事情を割り引いても、十代のゲッツが充分に「吹けた」ことを物語っている。もちろん、まだ固まってはいない。方向を決めかねている様子は、45年12月のカイ・ウィンディング(トロンボーン)のセッションにとらえられている。デックス系の逞しい演奏と、レスター系のマイルドな演奏が混在しているのだ。

 46年になると一段と逞しさを増し、グッドマン楽団の《ラトル・アンド・ロール》ではホンカーまがいのブローを見せた。録音の上では、7月の初リーダー・セッションでデックス化は頂点に達し、半年後に様変わりする。47年2月のヴィド・ムッソ(テナー・サックス)のセッションで準レスター化の兆しを見せ、6月のジャスト・ジャズ・コンサートではレスターの影とともにクール・ゲッツの芽生えが見てとれる。47年の初めに知りあったハービー・スチュワードに感化され、レスターの軽いサウンドにとりくんでいたのだ。

クール・ゲッツは過渡期の姿か

 ムッソ楽団のテナー奏者、スチュワード、ゲッツ、ズート・シムス、ジミー・ジュフリーは、週末はトミー・デカーロ楽団で演奏していた。ジーン・ローランドが編曲した4テナー・サウンドはウディ・ハーマン(リーダー)に注目され、秋にはジュフリーを除いて同楽団に引き抜かれる。ジュフリーをサージ・チャロフ(バリトン・サックス)に替えた「フォー・ブラザース」の誕生だ。在団中のゲッツはスチュワード色が濃いが、48年12月の名演《アーリー・オータム》でクール・ゲッツを完成し、巨人への第一歩を踏みだす。

 このあと50年から52年にかけてはウォーム・ゲッツに、53年にはホット・ゲッツに「変貌した」とされる。しかし、十代の頃はホットだったし、クール期を除いてはヴァイタルなインプロヴァイザーでありつづけた。それがゲッツの本質で、クール・ゲッツは過渡期の姿ではないか。もっとも、これほど目を引くスタイルもまれで、被影響者もそこに集中している。白人ではズート、イースト派のアレン・イーガーとフィル・アーソ、ウエスト派のビル・パーキンスとリッチー・カミューカが、黒人ではセルダン・パウエルがいる。

●ズート・シムス(1925‐1985)

生涯高打率のスウィンガー

 ジャズ史を揺るがす問題作を残したわけではないし、可もなく不可もない凡作を乱発したわけでもない。聴いている間はすこぶる快適だが、あとに残るものは小さい。しかし、愛すべきジャズ・ミュージシャンだ。これがズートに対する大方の見解ではないか。ワーデル・グレイと同様に、ミュージシャンとして望ましい資質をそなえ、演奏は常に一定以上の水準を保っていた。確立したスタイルに安住していたともいえるわけだが、そこまでの道のりは思いのほかに平坦ではなかったし、ズートをモデルにした奏者も少なくない。

 カリフォルニアでボードビリアン一家に生まれ、ドラムスとクラリネットを担当し、13歳でテナー・サックスに持ち替える。41年にプロ・デビューし、グッドマン楽団などで演奏した。当時の録音を集めた手持ち盤にズートのソロは見当たらない。44年5月のジョー・ブッシュキン(ピアノ)のセッションで聴けるソロが初ソロではないか。18歳にしては達者だ。2曲はジョージ・オールド系だが、《レディ・ビー・グッド》ではレスターへの傾倒を露わにしている。固まっていないということだ。このあとは46年まで兵役に就く。

テナー一本サラシに巻いて

 除隊後はグッドマン楽団などで演奏したが、前述したように47年の秋にハーマン楽団に移って名をあげた。ただ、残された数少ないソロを追うと、過渡期だったことがわかる。入団直後はスチュワード流の軽やかなスタイルだが、1年後にはゲッツ流の逞しさを加えているのだ。独創性はゲッツにおよばないので、識別は容易だろう。49年に独立するが、50年にグッドマン楽団に舞い戻る。楽団の渡欧時に録られた4月の初リーダー・セッションで「らしさ」を見せ始め、51年8月のリーダー・セッションで完成した、かに見えた。

 53年にスタン・ケントン楽団に移ると、軽快なだけのスタイルに戻る。独立後のフリー時代、ジェリー・マリガン・セクステット時代も同じだ。56年にハーマン楽団での同僚、アル・コーンとテナー・チームを組み、やっとウォームでスウィンギーなスタイルを確立する。ズートはアルからダークでハードな感覚を、アルはズートからスウィンギーな歌心を吸収した。晩年は逞しさを増し、テナー一本サラシに巻いて行くが男の生きる道を貫く。アル、イーガー、アーソ、ウエスト派のジャック・モントローズが影響をうけている。

●ソニー・ロリンズ(1930‐)

アドリブの天才は天然印

 アドリブがジャズの肝だからといって、ミュージシャンは無から有を生みだしていると思っている方はあるまい。アドリブ能力は脳と身体を結ぶ回路の出来いかんにかかっていて、パーカーは膨大なストックを瞬時に検索・出庫する能力が桁外れだったのだと思っている。ところが、最盛期のロリンズを聴いていると、そうした回路を通さずに「リアルタイムでアドリブしているな」と感じることがままある。ルイ・アームストロング(トランペット)やオーネット・コールマン(アルト・サックス)と並ぶ、「天然印」だと思う。

 ハーレムで生まれ、11歳でアルト・サックス(アイドルはルイ・ジョーダン)を始め、16歳でテナー・サックス(アイドルはコールマン・ホーキンス)に替える。高校卒業後にプロ入り、すぐに第一線に躍り出る。多くのテナー奏者を研究し、早くも個性を示しつつあったのだ。初録音は49年1月のバブス・ゴンザレス(ヴォーカル)のセッションで、5月にはJ・J・ジョンソン(トロンボーン)の、8月にはバド・パウエル(ピアノ)のセッションに抜擢された。デックス系でありつつ、ロリンズらしさの芽生えもうかがえる。

お務めと雲隠れをぬって

 50年に録音はない。麻薬所持により、大半を別荘で暮らしたからだ。出所後の51年1月に、かつて共演したマイルス・デイヴィス(トランペット)のセッションに迎えられる。終了後、マイルスがお膳立てして吹き込ませた《アイ・ノウ》がロリンズの初リーダー録音だ。パーカー色を強める一方で、バップの均等八分音符乗りからの離脱を試みている。10月のマイルスの『ディグ』セッションでは覇気が勝ったが、12月の初リーダー・セッションでは格段に成長した演奏を繰り広げ、豪放磊落なスタイルがほぼ完成の域に近づく。

 52年も録音はない。再び別荘に入っていたのだ。出所後の53年1月に、パーカーとの2テナーでマイルスのセッションに参加する。アル中とムショ帰りは好勝負、両者の相似性をとらえて貴重だ。54年6月のマイルスの『バグス・グルーヴ』、10月のセロニアス・モンク(ピアノ)とのセッションになると、心底うまいと思わせる。しかし、暮れには麻薬更正施設に入り、1年も姿を消す。出所後、マイルスから新グループへの参加を打診されるが、自信のなさから応じず、マイルスはジョン・コルトレーンで我慢することになる。

 55年11月、ロリンズはクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットで復帰した。ここでのロリンズが面白くないのは、グループの「イケイケドンドン」コンセプトに合わせてバップ流のスタイルに戻している、つまり「らしく」ないからだ。ローチがプッシュしまくった名盤『サキソフォン・コロッサス』にも似た節がある。かつて試みた絶妙の間合い、大きなウネリ、意表をつくフレージングといったロリンズの完成した姿は、12月の『ワークタイム』をはじめ他のリーダー作のほうに遺憾なくとらえられている。

 コルトレーンが頭角を現すまで、ロリンズは大きな影響力を誇った。黒人ではそのコルトレーン、新主流派のウェイン・ショーターとジョー・ヘンダーソン、前衛派のアルバート・アイラー、逆影響されたデックスがいる。白人ではイースト派のJ・R・モンテローズ、フランス外人部隊のバルネ・ウィラン、コルトレーン派から鞍替えしたスティーヴ・グロスマンがいる。ロリンズのアドリブの境地に達するのは不可能事に思える。コルトレーンの「システム」は真似られても、ロリンズの「天然」は真似るものではないだろう。

●ジョン・コルトレーン(1926‐1967)

巨人の影も露わな下積み時代

 コルトレーンがジャズの第一線で活動したのは、マイルスのグループに抜擢された55年9月から急逝する67年7月までの12年たらずだ。その前に、10年におよぶ下積みを経験していた。遅咲きの新人は遅れをとり戻すように、あるいは何かに憑かれたように、常人数世代分の速度と密度で爆走し、目まぐるしい変貌をくり返していく。ここでは最初のスタイルを確立したあたりまでを対象とさせていただく。それ以降の、確立した地位に安住せずに表現の拡大を追求しつづけた時期の演奏は、スタイルで語るべきものではあるまい。

 ノース・カロライナで生まれ、アルト・ホーン、クラリネットを経て、15歳でアルト・サックスを手にした。43年にフィラデルフィアに移り、音楽学校を卒業後、45年に地元でデビューする。すぐに海軍に徴兵され、軍のバンドに所属した。除隊間際の46年7月に録られた私的録音《ホット・ハウス》が残されている。当時のアイドルはパーカーだった。明らかに、同曲(45年5月のサヴォイ録音)のパーカーを模している。ラリったパーカー(いつもか?)としか聴こえないのは、パーカー流の倍テンポをこなせていないからだ。

 除隊後はR&Bバンドを転々とし、49年にディジー・ガレスピー楽団に雇われた。11月と翌1月の公式録音に出番はない。テナー・サックスに転向後、51年1月のエア・チェック《グッド・グルーヴ》と3月の公式録音《ウィ・ラヴ・トゥ・ブギー》でのコルトレーンは、泣きを含めてデックス系だ。アール・ボスティック楽団(52年)とジョニー・ホッジス楽団(53年~54年)の公式録音にソロはないが、後者の54年6月のエア・チェックに記録されている。ソニー・スティットを基本にして、ドン・バイアスを加味した格好だ。

大抜擢から限りなき探究へ

 前述したように、55年9月にコルトレーンはマイルス・グループに補欠当選した。10月の《アー・リュー・チャ》ではデックス~ロリンズ系で通している。11月のセッションでは、間を活かしたロリンズ風あり、たたみかけるスティット風あり、ルーズなデックス風ありと、忙しい。56年2月のライヴでは、シャープでハードなスタイルの確立に向かっている。5月のセッション(注)で「らしく」なってくるが突き抜けてはいない。このあと劇的に成長し、10月のセッションではコルトレーンにほかならない個性を確立している。

 57年5月の初リーダー作『コルトレーン』の完成度は約束されたも同然だった。そこにとどまったとしても第一級の地位は揺るがなかっただろうが、潔しとする男ではなかった。7月にはセロニアス・モンク(ピアノ)のグループに参加し、一段と成長する。こうして怒涛の快進撃が始まった。「シーツ・オブ・サウンド」とよばれるコード進行に基づく演奏の限界に挑み、モード手法で表現の可能性を広げ、ついにはフリーの領域に突き進む。その歩みは、前人未到の地に踏み入る「ジャイアント・ステップス」そのものだった。

 コルトレーンによって、テナー・サックスはコルトレーン以前と以後に分けられたといっても言いすぎではないだろう。影響をまぬがれた者を並べたほうが早いのではないかとも思うが、そうもいくまい。ここでは、コルトレーンを出発点にして独自のスタイルを築きあげた大物をあげておこう。黒人ではショーター、ヘンダーソン、前衛派のアーチー・シェップ、ここでも逆影響をうけた格好のデックスがいる。白人では初期のグロスマン、コルトレーン派の急先鋒というべきデイヴ・リーブマンとマイケル・ブレッカーがいる。

 注:「マラソン・セッション」とよばれる。CBSへの移籍に向けてプレスティッジとの契約を消化するため、マイルスは56年5月11日と10月26日の2日間でアルバム4枚分、31曲を録音するという離れ業をやってのけた。

●参考音源

[Stan Getz]
Teenage Stan Vol.1/Stan Getz (43.9-46.1 Masters of Jazz)
Teenage Stan Vol.2/Stan Getz (46.1-47.6 Masters of Jazz)
The Thundering Herds/Woody Herman (47.10 & 12 Columbia) 3LPs
Keeper of the Flame/Woody Herman (48.12 Capitol)

[Zoot Sims]
The Complete Small Group Sessions Vol.1 /Zoot Sims (44.5-50.6 Blue Moon)
Zoot Sims Quartets (50.9, 51.8 Prestige)
California Concerts Vol.2/Gerry Mulligan (54.11 Pacific Jazz)
From A to Z/Al Cohn-Zoot Sims Sextet (56.1 RCA)

[Sonny Rollins]
The Amazing Bud Powell Vol.1 (49.8 Blue Note)
Sonny Rollins with The Modern Jazz Quartet (51.1 & 12, 53.10 Prestige)
Bags Groove/Miles Davis (54.6 Prestige)
Worktime/Sonny Rollins (55.12 Prestige)

[John Coltrane]
The Last Giant: The John Coltrane Anthologie (46.7-54.6 Rhino)
The New Miles Davis Quintet (55.11 Prestige)
Workin', Steamin', Relaxin', Cookin'/Miles Davis (56.5 & 11 Prestige)
Coltrane/John Coltrane (57.5 Prestige)