Thomas Pelzer Limited
Thomas Pelzer Limited

 ヨーロッパ盤の常、材質が柔らかいのでカドが少々ヘナヘナしてるジャケットを眺めれば、1974年録音とある。当時まだ輸入が少なかったベルギーのヴォーゲル・レーベルはフレッド・ヴァン・ホーフなど、どちらかというとフリー系で有名。ジャケット・デザインも、当時ドイツ・フリー系レーベルの代表、FMPに似たシンプルかつインパクトのあるもので、手にとって見るとどうしたわけかジャケ裏の印刷が裏返し。?と思ってじっくり調べるに、アメリカ盤のようにボール紙に薄紙を貼り付けた体のものでなく、ジャケットに直に印刷してある。つまりやる気なのだ。ウーンと唸りつつメンバーを見ると、またもや?。

 ロイ・オービソン(知ってるかな~、大昔のロッカーです)似のジャズ・ギタリスト、ルネ・トーマが写っている。彼は間違ってもフリーではない。そこで改めて試聴してみると、これがいいのだ。

 バリー・ハリスの名演で知る人ぞ知る名曲《ロリータ》(『アット・ザ・ジャズ・ワークショップ』(Riverside)に収録)を実に小気味良く、かつファナティックにカマしている。即買い。確か購入先は、渋谷にある“世界一小さいジャズ・レコード店”『Jaro』。店に持ち帰りターンテーブルに乗せれば、さっそく熱心なお客様が不思議そうにジャケットを手にとって眺める。

 その「不思議感」はジャケットの作りもさることながら、70年代当時のコアなジャズマニアのアタマに刷り込まれていた、FMP、ICP的フリー風味ジャケットから繰り出されるもろハードバップのミスマッチ感だろう。もちろん演奏のインパクトもある。要するにアメリカ版ハードバッパーとはひと味違う、「オレたちだって出来るんだ」的異様な迫力に惹きこまれたのだ。

 《ロリータ》もいいがこれも定番《スター・アイズ》など、相方のアルティスト、ジャック・ペルゼーが聴かせる。決してウマくはなく、むしろギコチないのだが、なんというか、「とにかくこのフレーズは吹き切るぜ」みたいな心意気がいいのだ。若干カスレ気味のサウンドも、マクリーンが必死こいている時を髣髴させ、これまたハードバップ・マニアの琴線をくすぐる。そう言えば、ドラムスがドイツ・フリーの大物、ペーター・ブロッツマンとのコンビで知られたハン・ベニンクなのも、不思議といえば不思議。

 とにかくこのアルバム、ジャズ喫茶的にはこの2曲で即買いなのである。皆さんも探してみてはいかが。

【収録曲一覧】
Side A: Lolita, TPL, Star Eyes.
Side B: Jesus Thinks Of Me, Juliette, All Or Nothing At All.

Jacques Pelzer (saxophone), Rene Thomas (guitar), Han Bennink (Various instrument), Rein De Graaff (piano), Henk Haverhoek (bass), Jean Linzman (Vogel Belgium 1974)