『ザ・レッキング・クルー/ ザ・インサイド・ストーリー・オブ・ロックンロールズ・ベスト・ケプト・シークレット』ケント・ハートマン著
『ザ・レッキング・クルー/ ザ・インサイド・ストーリー・オブ・ロックンロールズ・ベスト・ケプト・シークレット』ケント・ハートマン著

 「60年代ウエスト・コーストのスタジオ・レコーディングの風景とヒット・レコードの制作秘話を伝える興味深い一冊だ。レコーディングが当時、ステージに立つミュージシャンと同じ顔ぶれで行なわれたと思い込んでいた場合、驚きは大きいことだろう」(ダスティ・ストリート、シリウスXMサテライト・ラジオ、『クラシック・ヴァイネル』のホストの発言)

●一時代を築いたスタジオ・ミュージシャンの真実

 1960年代や70年代初期のポピュラー・ミュージックのファンであれば、レッキング・クルーの存在を知ろうが知るまいが、彼らのファンである。

 本書に登場するウエスト・コーストの活動歴もさまざまなスタジオ・ミュージシャンは、バーズ、ビーチ・ボーイズ、モンキーズから、グラス・ルーツ、フィフス・ディメンション、ソニー&シェール、サイモン&ガーファンクルにいたるまで、次々にヒットしたあらゆるアーティストのレコードにドライヴィングなサウンドを吹き込み、地歩を固めた。ときには、バンドの正規のメンバーが、レッキング・クルーのセッション・マンに演奏を譲るよう強いられ、異議を唱えることもあった。

 著者ケント・ハートマンは、トップ・スターのレコーディングを陰で支える秘密兵器として業界の信望を得たスタジオ・ミュージシャンのドラマティックな裏話を、事情通ならではの説得性をもって綴る。

 彼は、貴重なインタヴューをまじえて、ドラマーのハル・ブレイン、キーボード奏者ラリー・ネクテル、あるいは数々のセッションに起用された女性ベーシストの草分け、キャロル・ケイというようなセッション・マスターのキャリアを辿る。また、グレン・キャンベル、レオン・ラッセルを始めとするレッキング・クルーのメンバーが、自らの実力によって成功を収めた経緯や、フィル・スペクター、ジョニー・ウェブに代表されるレジェンドとクルーの関係を明らかにする。

 ハートマンは、『ペット・サウンズ』や『明日に架ける橋』、ロックの名盤《いとしのレイラ》をもたらした伝説のセッションが繰り広げられるスタジオ内部へと、読者を誘う。さらには、モンキーズのマイク・ネスミスがプロデューサー、ドン・カーシュナーと対決する場面や、マイケル・ルビニが《夜のストレンジャー》のセッションで、フランク・シナトラの専属ピアニストにブースへと追われる様子、グラス・ルーツのギタリスト、クリード・ブラットン(後にアメリカのテレビ・シリーズ『オフィス』で人気を得る)が、グループを解雇されるといった決定的瞬間をも垣間見せる。ちなみに《いとしのレイラ》は、レッキング・クルーのドラマー、ジム・ゴードンがデレク&ドミノズのためにエリック・クラプトンと共作した曲である。

 本書『ザ・レッキング・クルー』は、アメリカのポピュラー文化におけるもっとも刺激的な時代にラジオのトップ40を占めたアーティストの知られざる歴史である。