情熱を失った新聞記者が再び「書きたい」と奮い立つ題材に出会うという出発点はデビュー作『盤上のアルファ』(二〇一一年)、子供たちの未来を奪う犯罪への憤りという点では代表作として知られる社会派ミステリー『罪の声』(二〇一六年)、フェイクニュースが蔓延し虚実の見極めが難しい現代社会のデッサンという点では吉川英治文学新人賞受賞作『歪んだ波紋』(二〇一八年)、関係者たちの証言によって犯人像が炙り出される構成上の演出は『朱色の化身』(二〇二二年)……。塩田武士氏の最新作『存在のすべてを』は、過去作の様々な断片が入り込んでいる。それらが見事に統合され、そのうえで、小説世界が根底からアップグレードされている感触がある。作家に何が起きたのか。本作で、何を起こそうとしたのか?
「笑わんと聞いてほしい。二児同時誘拐ってどう?」 塩田武士氏の小説が走り出した瞬間
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