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「話題の新刊」に関する記事一覧

カミカゼ
カミカゼ 終戦から67年。高層ビル群が広がるこの大都市は、戦時中の若者の目にはどう映るのだろうか。  特攻隊員・陣内武一は、米軍空母に向かった直後、時空を超えて、67年後の東京で目を覚ます。そこで、アルバイトやボランティア活動で日々をやり過ごし、そんな状況を社会のせいだと義憤を抱く田嶋慎太と出会う。  話が噛み合わないまま、行動を共にする二人。陣内は図書館で戦争の結末に涙し、現代までの流れを知る。ある晩、酔った慎太の話から、日本に迫る危機に気づく。  週刊誌記者を経て作家となった著者が「作家生命を賭けた」という本書。出撃前夜の宴席での特攻隊員の思いや、零戦で米軍の敵艦に立ち向かう緻密な描写に冒頭から圧倒される。一方でフリーターの目を通して、現代の日本が抱える問題や閉塞感を浮き彫りにする。各々にリアリティを持たせつつ、エンターテインメントとして読み手を引き込んでいく。中でも、筋の通った男気が印象的な陣内は魅力的なキャラクター。重くて大きなテーマに真正面から取り組んだ意欲作。
影の磁力
影の磁力 鉄道や団地に関する著書でも知られる政治思想史家、原武史の評論集。タイトルの「影」は、政治史を語るうえで隅に追いやられている文化を指す。「鉄道」「東アジア」「天皇制」「昭和史」、著者の過去を記した「私の邂逅記」の五つの章から構成される。  天皇制をめぐる評論や昭和史の考察では、新聞記者として昭和天皇崩御までを見届けた経験に基づく著者の視点が率直に記されている。正史からこぼれ落ちた歴史に目を向けながらも、決して正史に背を向けない。天皇陵を自転車でめぐり、陵の形状から時代や土地による天皇観の違いを探る。三島由紀夫の『春の雪』は、〈強い天皇〉がいた明治と〈弱い天皇〉がいた大正という時代対比が全体を貫くモチーフとなっていると指摘する。戦前と戦後の「裂け目」を露出させることから、近代日本の新たな正史を浮かび上がらせる。  「忘却された歴史を取り戻すために、一体何が必要なのか」。テキストや史実のみならず、自身が見聞きし感じたことから歴史をひもとく著者の姿勢が文章に迫力をもたせている。
「幻の街道」をゆく
「幻の街道」をゆく 歴史に埋もれた六つの道を市井の人と語った異色の紀行文だ。江戸時代、石川県の山奥から金沢へ火薬の原料を運んだ「塩硝の道」、幕末・明治に八王子から横浜まで生糸を“密輸”した「絹の道」、長崎・対馬の「元寇の道」……。著者が名付けた道もある。  なかでもユニークなのは「海苔の道」だ。海のない長野県の諏訪に、なぜか代々海苔の等級分けの名人たちがいて、真冬に全国各地に呼ばれて仕分けをしている。海苔の艶や密度を見て瞬時に判断する仕事は、機械にはできないという。  著者は、海苔産業に縁の深い諏訪大社を訪ね、海苔の一大生産地だった東京・蒲田を歩く。古老の話では、海苔の養殖も親分と子分がいる、建築業のような“階級社会”であり、蒲田が歓楽街になったのは、戦後の羽田空港拡張で海苔業ができなくなり、多額の補償金を得た漁師が飲み歩いたからだという。ちなみに、蒲田の海苔は「浅草海苔」の名前で流通している。  全編こんな秘話がしっとりした筆致で語られ、しばし瞑想に耽りたくなる。
早稲女、女、男
早稲女、女、男 早稲田大学にはかねてから「男と女と早稲女(わせじょ)がいる」という「定説」が存在している。化粧っ気が無かったり、酒がやたらと強かったり。けれどもガサツ一辺倒なワケではなく、場の空気や人の気持ちが読めて……「男でも女でもない」と言われる早稲女の物語を、立教大学出身の著者が書いた。  主人公の香夏子は、早稲田大学教育学部の4年生。五つもあった内定を蹴って、念願の出版業界に進路を決めた初志貫徹型の早稲女だ。所属する演劇サークルは、脚本と演出を担当する長津田が全く脚本を完成させないせいで、ただの飲みサークルと化している。そして、このだらしない男こそ、香夏子の「初めての男にして唯一の男」なのだ。  典型的早稲女とダメ早稲男。そんなふたりの恋愛を中心に、立教、日本女子、学習院、慶應、青山学院の女子が続々と参入するストーリーは、華やかだが汗臭い。「○○大学の人間であること」と「私であること」の狭間で、素直に、無様に、揺れ動く自意識。イタくて可愛い、これぞまさに女子のための青春小説だ。
復興は現場から動き出す
復興は現場から動き出す 本書は東京の医師を中心とした草の根ネットワークが震災後の1年間、福島県・浜通り地区の医療と健康をどう支えたか、という記録である。著者は東京大学医科学研究所特任教授で血液内科医。  著者は編集長を務める、読者が約五万人のメールマガジンで、被災直後から現場の声を配信した。さらに行政・医療・メディア向けのメーリングリストも発足した。ネットワークは現地と支援者をマッチングさせ、世論を高めた。支援の輪は宗教や教育関係者にも広がった。  例えば当時、国が原発からの距離で定めた避難区域を超えた地域でも入院が制限された。医師も看護師もいる。だが脳卒中患者を1時間超かけて他地域へ搬送しなければならなかった。ネットワーク上では何度も現地の様子が訴えられた。地元紙は報じなかったが、東京の記者が記事に書いたことで入院規制は解除された。著者はボランティアを通して「復興には人材育成が必要」と気付く。そして地域の医療崩壊を止めるため、「東北に医学部新設を」と声を上げている。
身につまされる江戸のお家騒動
身につまされる江戸のお家騒動 時代小説や時代劇でお馴染みの“お家騒動”だが、実際はどうだったのか。そんな疑問を抱いた人にお薦めしたいのが本書だ。江戸時代を中心に、なん40件のお家騒動が取り上げられている。  本書の特徴は、お家騒動を「主家異動」「幕府介入」「藩主押込め」など、幾つかのパターンにカテゴライズしたことだ。また、さまざまな人々の思惑が入り乱れる複雑なお家騒動については、人物相関図が挿入されている。これによりお家騒動の全体像が、つかみ易くなっているのだ。  さらに「伊達騒動」「黒田騒動」といった有名なお家騒動だけではなく、かなりマイナーなものにもスポットを当てている。内乱寸前までいった人吉藩の「お下の乱」を始め、こんなお家騒動があったのかと、唖然茫然。歴史読み物としても、抜群の面白さだ。  そして各章のラストには、お家騒動を通じて浮かび上がってきた“身につまされる教訓”が記されている。現代でも有効な数々の教訓を、実例を伴って知ることができるのも、本書の美点であろう。

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