常盤武彦［ジャズを巡るニューヨーク］

セントラル･パークのサマーステージ、セレブレイト･ブルックリン！など大公園のコンサートは、人気アーティストが出演すると、よいスポットで楽しもうと思ったら、開演の一時間以上前には並ぶことがマストとなる。ニューヨーク市内の至るところに点在する公園のいくつかでは、ウィークデイの夕方に、リラックスして楽しめるコンサート･シリーズが開催されている。2012年で10周年を迎えたマディソン･スクェア･パーク･オーヴァル・ロウン･シリーズも、その中の代表的なフリー･コンサートである。

アメリカの夏の終わりは、９月の最初の週末の３連休、レイバー・デイ(労働者の日)･ウィークエンド。この週は、去りゆく夏を惜しんで、各地で様々なイヴェントが催される。今回はニューヨークを離れ、多くの優れたジャズ･ミュージシャンを生み出している、デトロイトに降り立った。33回目を迎える北米でも最大の無料で愉しめるジャズ･フェスティヴァル、デトロイト･インターナショナル･ジャズ･フェスティヴァルをリポートしよう。

往年のヒット曲「ワシントン･スクエアの夜はふけて」でも知られる、グリニッチ･ヴィレッジの象徴のワシントン･スクウェア公園周辺は、ニューヨーク大学のキャンパスにも囲まれた学生街の中心としても知られ、50年代からボヘミアンなライフ･スタイルの若者が集うエリアだ。彼らや、古くからのヴィレッジの住人達に愛されているイタリアン･カフェが、La Lanterna di Vittorio Cafe である。ワシントン･スクウェアから半ブロック、アンティーク調の内装と、ガラスの天井が張られた中庭が売り物で、エスプレッソやカプチーノ、スウィーツから、ピザや、パスタ、豊富なチーズとワインが、サーヴされる。その地階のスペース半分で10年ほど前から、ジャズ･ライヴが聴けるようになり、“The Bar Next Door”を名乗るようになった。

“Bitter End”や、“Kenny's Castaways”など、1960年代にはボブ・ディラン(vo,g)らが活躍したライヴ・ハウスが軒を連ね、ヒッピー・カルチャーの発信地だったブリーカー・ストリート。その一角に1958年にオープンしたジャズ・クラブが、“ヴィレッジ・ゲイト”である。ディジー・ガレスビーItp) 、マイルス・デイヴィス(tp)や、ジョン・コルトレーン(ts,ss)が競って出演した。今春にもビル・エヴァンス(ｐ)が1968年に、一階のレストラン・スペース、“トップ・オブ・ザ・ゲイト”でライヴ録音した未発表音源が発掘され、話題となった。

ニューヨークのジャズ・シーンの深さは、世界中から集まった多彩なミュージシャンが、演奏を披露するスペースが、アメリカの他の都市に比べて、圧倒的に多いことであろう。もちろん、ミュージシャンの層も厚いので、演奏のチャンスを得るまで、それぞれに紆余曲折はあるが、ジャズ・クラブに限らずレストランのようなところでも、可能性を秘めたアーティストに出逢うチャンスがある。ウェスト・ヴィレッジの中心7thアヴェニュー・サウス、地下鉄レッド・ラインのクリストファー・ストリート駅を降りてすぐのところにある、レストラン&カフェ“Garage”も、そんなお店だ。

年明けのニューヨークは、毎年１月の上旬から中旬にかけて開催されるAPAP(アメリカン・パフォーミング・アーツ・プレゼンター協会）の年次総会が開催され、全米、世界中から、音楽、ダンス、演劇関係者が集結する。ジャズ部門のショウ・ケースとして開催されるのが、NYC ウィンター・ジャズフェストだ。９年前にスタートしたときは、当時トライベッカにあった３つのステージをもつニッティング・ファクトリーで、20のコンサートの規模だったが、今年は、ヴィレッジのル・ポアゾン・ルージュと、ジンク・バーを中心に、６つのヴェニューで２日間開催し、75ものコンサートが、ノン・ストップで続いた。