リオTBS取材班のメンバー。著者は左から2人目
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リオTBS取材班のメンバー。著者は左から2人目
スマホ片手の観戦は当たり前の風景に
スマホ片手の観戦は当たり前の風景に
図1
図1

●異例ずくめで始まったリオオリンピック
 
 2016年8月20日。オリンピック最後の土曜日。リオ・デ・ジャネイロ市バッハ地区にあるオリンピックパークは、期間中最も多くの人で賑わっていた。まもなく男子サッカーの決勝戦が始まるとあって、広場はブラジルのユニフォームと、ほぼ同色のボランティアの制服で埋め尽くされ、私はカナリア色の人々の群れに圧倒されていた。

 オリンピックパーク広場の地面は、“砂利コン”の上に緑色のペンキを塗っただけの粗悪なもの。その色こそカナリア色の人々とマッチするものの、冬でも30度まで上がったこの日は灼熱地獄そのもの。それでもブラジルの人たちは日陰を見つけては寝そべり、日時計のように影に合わせてのんびりと移動していく。

 思えば、異例づくしの大会だった。ジルマ・ルセフ大統領の職務停止(8月31日に失職)、ジカ熱の流行、リオ市周辺の治安の悪さなどが日本でも大きく報道され、私たち取材メディアもバス・地下鉄・タクシーなど公共交通の利用は極力控えるよう指示されていた。

 私もリオ滞在中の9割以上の時間を、メディア村(宿舎)とIBC(国際放送センター)、そしてIBCに隣接するオリンピックパークのみで過ごすという異常事態。これは各国とも似たようなもので、宿舎の朝食ビュッフェでは「どこは安全」だの「これでは『籠の中の鳥』だ」だのと嘆く声をよく耳にした。

 期間中、日本総領事館に寄せられた日本人の犯罪被害は28件。「日本人は、マメに届けるねえ」というブラジル人の冗談はさておき、無事に帰れたことに感謝すべきなのかもしれないが。
 
●「米NBC、リオ五輪視聴者数が大幅ダウン」の衝撃
  
 夕方になると、つい先ほどまでの晴天がウソのように強い雨と風に変わった。蜘蛛の子を散らすように、トンネルに殺到する雨宿りの人々を横目で見ながら、私は気になる見出しのことを考えていた。東京の放送局の友人がフェイスブックにアップしていた米ブルームバーグの記事だ。

 「米NBC、リオ五輪視聴者数が大幅ダウン」

 米4大ネットワークの一つであるNBCは、2000年のシドニー大会以降、全米におけるオリンピック放送を独占している。すでに14年ソチ大会から32年まで、夏季冬季合わせて10大会の独占放映権料=約120億ドル(約1兆3000億円)を支払い済み。IOC最大のお得意様である(ちなみに日本の放映権料は、18年〜24年の4大会で約1100億円)。

 世界中の放送局が集まるIBCでも、NBCのブース面積は最大だ。その広さは日本の放送局ブース全体の約2倍。ブースの入口には自前の黒人ガードマンが立ち、IDと手荷物検査を行うという厳重な警戒ぶり。NBCの記者に聞いてみると、ブース内には専属シェフ付きの24時間専用食堂もあるという。

 オリンピックパーク内を走る専用カートも、オリンピック放送(国際映像)を制作するオリンピック放送機構(OBS)、地元ブラジルの放送局TVグローボ(Rege Globo)と並んで特別に使用が許可されている。NBCの別格扱いを目の当たりにしていただけに、記事の衝撃は大きい。

 NBCによれば、2000年シドニー大会以降、右肩上がりを続けてきたオリンピック視聴者数が、初めて前回大会を下回ったという。プライムタイムの平均視聴者数は約2540万人。前回のロンドン大会の約3030万人に比べ、約17%ダウンしたのだ。

 さらに広告主が最も欲しがる18歳〜34歳の平均視聴者数は約360万人と、前回より約30%ダウン。若者のテレビ離れがいよいよ鮮明となった。 

 NBCの幹部は「若者たちは、フェイスブックやスナップチャットに夢中で、オリンピックが始まったことに気づかなかったのでは」という、ボヤキとも取れるコメントを出している。

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