●ネットがないと、仕事にならぬ
  
 取材現場でも、あらためてインターネットの重要性が浮き彫りになった大会だった。携帯電話が通じなくても、無料通話アプリのLINEが大活躍。LINE電話によるリオ市内での通話、そして東京との通話は驚くほど良好だった。通話が無料であることはもちろん、写真や短い動画をすぐに送れることが情報共有に何よりも役立った。

 また取材映像の伝送や現地からの中継についても、インターネットによる伝送や中継が実に有効だった。インターネットの長所は、大規模な設備や人数をかけずに、ネット環境さえあればどこでも簡単に作業を進められること。実際、一人で立ちレポをセルフィー収録し、インターネット伝送する外国メディアの姿も数多く見かけた。

 私が一番感動したのは、「電子パッド・フリップ」である。東京で作ったフリップ原稿が、リオの電子パッドにほぼ同時に同期される。紙フリップの節約もあるが、まるで東京にいるかのような錯覚を起こすほどの速さとクオリティだった。

 もはや海外取材では、携帯Wi―Fiは必須である。2020年東京でも海外メディアにとって無料Wi―Fiの整備は、最重要課題となるだろう。
 
●放映権とソーシャルとの境界線をどう設定していくかという課題 
  
 競技会場にチケットで入場して驚いたのはその緩さだった。もちろん、オリンピックパークに入るときに、手荷物検査とボディチェックは済んでいる。とはいえ、コンサート会場でよくあるカメラやビデオの持ち込み制限は一切なかった。会場内で観客がスマホやビデオで撮影することも、まったく問題なし。

 巨額の放映権料を得ているIOCは、そもそも映像に対する規制は厳しい。なのに、観客たちには自由に撮影させ、SNSに投稿させているのは、もしや高度なプロモーション戦略なのか?

 もちろん、すべての観客のSNSをチェックすることは至難の業だ。できることといえば、ユーチューブなどで広告収入を得ている動画を取り締まるくらいしかない。

 一方で、フェイスブックなどが積極的に進めている「ライブ配信」が、次の東京では大きな課題となる。今回も英BBCなどは、オリンピックパークから積極的にライブ配信を行った。スマホ一つあれば可能な、観客による競技会場内からのライブ配信をどうするのか? 一部のコンサート会場のように、インターネットを遮断するのか? その場合、取材メディアは混乱しないのか?

 またSNS各社が、利用者の投稿に広告収入を認めることはないのか? もしあるとすれば、現在のユーチューブを中心に取り締まるレギュレーションが4年後には大きく変わることになる。どちらにしても、放映権をめぐる議論はさらに複雑になるはずだ。
 
●オリンピックのドラマは自分で見つけるのが一番!? 
  
 しかしリオで最も感じたことは、オリンピックにはメディアが伝え切れないドラマがたくさんあるということだ。日本では放送されない競技や選手にも、それぞれの人生を賭けたドラマがある。

 私が気に入ったのは、柔道女子78キロ超級のキム・ミンジョン選手(韓国)。金髪でふてぶてしい外見だったが、3位決定戦で33キロも重い中国人選手を相手に果敢に技を仕掛け続けた。最後は、相手に技を掛けたところをゴロンと返され、一本負け。悔し涙でしばらく立ち上がれなかった彼女に、私は「素晴らしい柔道をありがとう」と声をかけずにはいられなかった。

 4年後の東京で、そんなドラマを自分で見つけられるというのは、なんという幸運だろう。これぞ究極の「マイタイム」なのだ。あれっ。

※1 スナップチャット(Snapchat)=コンテンツを自動消滅させることができるLINEのようなチャットアプリ。
※2 クレイ・シャーキー(Clay Shirky)=米国ソーシャル研究の第一人者。著書に『みんな集まれ ! ネットワークが世界を動かす』などがある。

●やまわき・しんすけ 1991年TBS入社。主に情報番組を担当。2007年ニューヨーク大学大学院で「テレビとインターネット」を学ぶ。2009年民放初のツイッター開始、2012年「大炎上生テレビ オレにも言わせろ !」を制作。著書に『Facebook世界を征するソーシャルプラットフォーム』(ソフトバンク新書)がある。