●スポーツを視聴する層の高齢化が止まらない
  
 でも、ちょっと待って。これってどこかで聞いた話ではなかったか? ハッと思い出したのが、図1である。2007年ニューヨーク大学(NYU)大学院で、クレイ・シャーキーが語った「マスメディアの時代から、ソーシャルメディアの時代へ」の変化の構図だ。

 「視聴者が、テレビから一方的に情報を受け入れるしかなかった『マスメディアの時代』はまもなく終わり、個々人が発信する大量の情報の中でテレビの情報さえ埋もれてしまう『ソーシャルメディアの時代』がやってくる」。

 そう、これはまさにあの“早口クレイ”が予告した状況ではないのか?

 一方で、リオオリンピックはNBCが初めてプライムタイムでストリーミング中継をした記念すべき大会となった。ストリーミングの視聴者数は、ユニークユーザーで1億人を突破。ロンドン大会に比べ29%アップ。その半数は35歳以下だったという。この結果を受け、NBCは「リオはメディア史上最も成功した大会」と総括した。

 しかし、私が気になったのは「20代以下の若者に『スポーツ離れ』が起きているのでは?」というブルームバーグの指摘だった。これまでスポーツはテレビ・コンテンツの「最後の砦」と言われてきた。しかし、スポーツ放送を視聴する層の高齢化が止まらないというのだ。

 イマドキの若者にとっては、スポーツ放送より「マイタイム」、自分の趣味・嗜好を重視する時間の過ごし方が優先されるという。 

 この記事を読んだとき、私の背中に冷たいものが走った。なぜなら、リオの会場でも同じような流れを感じていたからだ。
 
●競技そっちのけで「セルフィー」にはまる若者たち
 
 「リオでは、スマホを見せるな」と出発前によく言われた。実際にはオリンピックパークのスマートフォン普及率は9割以上。あちこちでセルフィー(自撮り写真)を撮っている人々がいた(さすがに、「自撮り棒」は見かけなかったが)。それは競技会場でも変わらない。

 あまりにセルフィーを撮る人が多いので、試しに「撮りますよ」と声をかけてみることにした。すると30代以上は、ほぼ全員が喜んで写真を撮らせてくれる。ところが20代以下となると(しかも女子グループは)半分以上が「ノー・オブリガーダ(大丈夫っす)」。

 しかもこの連中ときたら、アングルを変え、表情を変え、お気に入りの写真が撮れるまで、何カットでも撮り続ける。競技そっちのけである。

 ああ、そうか。彼女たちは自分たちの写真をセルフ・プロデュースしたいんだ! 実際、若者に人気のインスタグラムやスナップチャットは、残したくない写真は自動消滅し、気に入った写真や動画のみが保存されることが人気の秘密だという。

 セルフィーのほかに観客がやっているのが、動画撮影だ。ブラジル人選手やウサイン・ボルト、マイケル・フェルプスといった有名選手が登場すると、会場のあちこちで動画撮影が始まる。撮影すると即、インスタグラムなどのSNSにアップロード。

 さすがに「ライブ配信」する猛者は見かけなかったが、4年後には出てきてもおかしくないほど、人々はスマホと一体化して観戦していた。

 また驚いたのは、競泳のレース途中にスマホでストリーミング中継を見ていた人がいたこと。確かに会場では、選手の寄り(アップ)の映像が見られない。ストリーミング中継を見ながら現場で見る、最強だ。

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