住宅から公共建築へ、そして都市ではない地域での共有空間へ──。現代日本を代表する建築家の一人、伊東豊雄は、時代に応じて思索をめぐらしながら少しずつ軸足を変えてきた。本書は、その起伏に富む建築家人生を本人が振り返る語りおろしの自伝。

 批判することをエネルギーとしていた70年代の熱い空気、時代特有の浮遊感をむしろ愛し、建築にもそれを反映させたバブル期の仕事などが順次語られるが、くりかえし立ち現れてくるのは、建築の中に身体性をいかに具現するかという大きなテーマだ。

 東日本大震災を転機に、現在の伊東は、愛媛県の大三島を拠点に定め、近代以前から引き継がれる日本固有の美を現代とつなげる試みに力を傾注している。「建築の美」にあえてこだわり、変転を重ねて新境地を切り拓きつづける姿勢には脱帽の思いだ。(平山瑞穂)

週刊朝日  2020年9月4日号