2019年1月、小説家である著者の母・絢子さんは91歳で永眠した。著者はその死を起点に、介護を中心とした母の晩年の生活を振り返る。

 00年の父の死を契機に、少しずつ認知症の症状が出始めた母。生まれてからずっと都内で母と暮らしてきた著者は、その当時は、経済的に安定せず、不安でふさぎ込んでしまうこともあった。そんな中でも、日常のささやかな変化や母の何気ない一言に救われ、母との二人三脚の生活を20年近くにわたって続けていく。この間、社員食堂での勤務や07年の作家デビューなど、分岐点となる大きな出来事もあった。

 印象に残るのは、母とのちょっとした会話のやりとりで、その飾らなさからふたりの強い絆が伝わってくる。母の死という悲しみを経て、また新たに前を向く著者の姿が感動的だ。(若林良)

週刊朝日  2020年7月24日号