カミュの長編小説『ペスト』が売れている。近所の書店では売り切れだ。いうまでもなく、新型コロナウイルスからの連想でこの古典を求める人が多いのだ。紙の本が手に入らなかったので、ぼくは電子書籍で読んだ。高校以来、45年ぶりの再読である。

 カミュが『ペスト』を発表したのは1947年。その10年後、彼は44歳の若さでノーベル賞を受賞した。そして3年後の60年、交通事故で亡くなった。

 194*年、フランス領アルジェリアの港町、オランでペストが流行する、というのがこの小説の設定である。人びとは次々とペストに感染し、苦しみ、死んでいく。行政によって街は封鎖され、外界と遮断される。市民は不安にかられ、怒り、嘆き、絶望する。

 ペストであれCOVID-19であれ、病というものは不条理だ。幼い子どもが死ぬシーンや、主人公のリウー医師とともにペストと闘うタルーが力つきるシーンには動揺してしまう。

 いまの日本の状況と重なるところが多い。たとえばペストの発生をなかなか認めたがらない医師会長の態度は、初動が遅れた安倍政権とよく似ている。いつ収束するのか予想もつかず、いつ自分が罹患するかもわからない不安のなかで、人びとのフラストレーションが高まり社会が刺々しくなっていくのも同じ。

 厄災はその人の本性をあぶり出す。政治家は無能さをさらけ出し、献身的に働く無名の市民が世の中を支える。さすがに、溜め込んでいたマスクをネットオークションに出して888万円も売り上げる県議会議員なんていうのは登場しないけれども。

週刊朝日  2020年3月27日号