かつては書店ウォッチャーを自認していたぼくだが、最近はあまり書店に行かなくなった。嫌韓反中を煽るヘイト本や、「従軍慰安婦はいなかった」とか「南京虐殺はなかった」などと主張する歴史修正主義本が視界に入るのが不愉快だからである。

 でも、避けているばかりではしょうがない。ああいう本はどんな論理と心理なのか知りたい。そう思って手に取ったのが山崎雅弘『歴史戦と思想戦──歴史問題の読み解き方』である。

 これが予想以上におもしろい。産経新聞の記事やケント・ギルバートらの文章を具体的に示した上で、そこにどんな問題があるのかを一つひとつ分かりやすく解説している。詭弁とトリックの見破りかたは、手品の種明かしにも通じる痛快さだ。

 彼ら歴史修正主義者の論理と心理には共通したものがある。論理については、一部に疑問があるからといって全体を否定するような詭弁が多い。たとえば南京大虐殺の被害者数には諸説あるが、「だから大虐殺はなかった」という論法である。事実を提示して定説を覆しているかに見えて、実は論理のスリカエだ。従軍慰安婦についても同様。

 心理については、彼らは戦前の大日本帝国にいたくご執心のよう。ここでも、大日本帝国と戦後の日本国とをひっくるめて「日本」とし、戦前の誤りを批判する者は「反日」だといいつのる詭弁が用いられる。

 こうした「歴史戦」と似たようなことが、じつは戦時中、政府主導の「思想戦」として行われていたという指摘は重要だ。この道はいつか来た道、なのである。

週刊朝日  2019年7月19日号