社会学が日本で注目されたのはいつ頃からか、誰の理論がきっかけだったか、門外漢の私はよく知らない。そんなことは知らなくても、自分が直面している現実について理解を深めようと読んだ本の著者が社会学者だった、という経験は何度もしてきた。

 大澤真幸もその一人なのだが、彼の『社会学史』の序文によれば、社会学には200年ぐらいの歴史しかないらしい。なぜか? 大澤はその理由を、社会学が<近代社会の自己意識の一つの表現>だからと明言する。現代につながる近代に、<社会秩序はいかにして可能か?>という固有の問いを掲げて成立した学問が、社会学なのだ。

 とはいえ、大澤による社会学史は古代のアリストテレスから始まる。社会学の前史として、他にも、ホッブスやルソーなどの社会契約論にも言及。また、黎明期の社会学に多大な影響を及ぼしたマルクスやフロイトの論考も的確に分析した上で、ようやく社会学史におけるビッグスリー、デュルケーム、ジンメル、ヴェーバーを取り上げる。近代を迎え、「社会」を発見した者たちがそこに見た「秩序」とはいかなるものだったのか……講談社の有志数名を相手に行った講義を基にしている文章とあって、私でもどうにか理解できた。特にたとえがわかりやすく、社会学の<ツインピークス>であるルーマンとフーコーの素晴らしさも素直に再認識した。

 大澤は最後に新しい社会学の可能性にもふれ、<偶有性>を組み込むべきと主張。私は、彼自身が新たな理論を展開する予感に興奮しながら、この600頁を超える快作を読みおえた。

週刊朝日  2019年5月31日号