芥川賞を受賞した上田岳弘の『ニムロッド』は、仮想通貨の“発掘”をする男が主人公だった。ニムロッドは主人公の友人の別名であり、バベルの塔の神話に出てくる名でもある。言語の混乱とコミュニケーションの不全をもたらしたバベルの塔は、仮想通貨の本質を暗示している。

 ならばドルや円のような、国家や中央銀行が発行する通貨なら安心か? 日本政府が消費税増税で導入するポイント還元は通貨なのか? キャッシュレスと通貨はどういう関係にあるのか? 頭の中に次々と「?」が湧いてきて、浜矩子『「通貨」の正体』を手に取った。

 通貨は人びとがそれを通貨だと認めることによって成り立っている。通貨を支えているのは人びとの認識と信用。誰でも知っているキホンのキであるが、意外と脆いものだと本書を通読して思う。

 浜は、仮想通貨だけでなく、ドルやユーロや人民元、そしてバンコールやSDR(国際通貨基金の特別引き出し権)などについて、通貨としてどうなのかを見ていく。そして毒舌で切りまくる。

 あらゆる通貨は仮想通貨であり、ビットコインなど暗号通貨は、むしろ仮装通貨、コスプレ通貨である。世界の基軸通貨といわれたドルも、いまや凋落の一途。トランプ以降はさらに落ちぶれて「嘆きの通貨」と化している。ユーロは政治的思惑でつくられた合成通貨で、いまや風前の灯火。人民元は人民のための通貨になれるかどうか不明。

 国も中央銀行も信用できない、とみんなが思った瞬間に通貨は紙切れになる。手もとの日本銀行券、持っていて大丈夫なんでしょうか?

週刊朝日  2019年3月22日号