高野山には企業が建立した墓が140基も連なる一角がある。これらは企業墓と呼ばれ、従業員や関係者が祀られている。週刊誌記者を経てフリーとなった著者が全国を回り、その実態を報告する。

 企業墓の中で多いのは全従業員が眠る墓という。企業墓は家族的経営が機能していた時代の遺物と思いきや、今なお全国で建立が続き、訪日客への宣伝目的で高野山に墓を作りたがるIT企業経営者もいる。キャラクターや自社製品を模した墓など、著者が撮った写真はそれぞれ個性的で見応えがある。

 著者は墓の「宗教力」に着目する。企業墓建立の真意は過去との決別であり、死者の魂を封じ込めて新たな企業活動を進めるための祈りを、企業は墓に込めると説く。一見希薄そうな日本企業と宗教との深い繋がりを考えさせられる一冊だ。(内山菜生子)

週刊朝日  2019年3月15日号