久保寺健彦の『青少年のための小説入門』は、入門書ではない。ヤンキー青年と気弱な中学生がコンビを組み、小説家を目ざす長篇小説だ。

 青年は自由に読み書きできないディスレクシアのため、自分では本が読めないのだが、それでも小説家になりたいと考えている。そこで、祖母が営む駄菓子屋で梅ジャムを盗んだ少年を捕まえ、警察沙汰にしない代わりに、小説の朗読を要求する。いじめっ子から強制的に万引きをさせられた少年は求めに応じ、『坊っちゃん』を皮切りに毎日、青年の前で古今東西の名作を読みつづけた。

 芥川龍之介、オー・ヘンリー、筒井康隆、太宰治、ヘミングウェイ、サリンジャー、横光利一、ドストエフスキー、柴田翔、田中小実昌、ボリス・ヴィアン……図書館職員の協力も得ながら小説の魅力を発見する一方で、2人は創作を開始する。青年がアイデアを、少年が執筆を担当。習作をくり返し、新人賞落選も経験してより精進し、少年が高校へ進学する頃、ついに覆面作家としてデビューを果たす。話題になった後も、2人は次作に向かってさらに悪戦苦闘の日々を過ごすが、少年が高校3年生のとき、残念ながらコンビを解消する。

 中年になって再デビューした少年の回想として書かれたこの作品には、創作の具体的な方法論と苦悩が満載だ。小説家を目ざす人には、それだけでも参考になるだろう。
 しかし、忘れてほしくないのは、2人の創作が読書からはじまっているということ。この青少年コンビは、タイトルどおりまず小説に入門して小説の素晴らしさに魅了され、そして小説家になったのだ。

週刊朝日  2019年1月18日号