この『消滅遺産』の表紙カバーには、アフガニスタンのバーミヤン渓谷にあった西大仏の写真が使われている。高さ55メートル。世界で最も高い立像として有名だったが、2001年3月、タリバンによって爆破された。1500年もの間そこに立ち続けていた仏像が一瞬にして崩れ落ちていく映像は、今でもすぐに思いだせるほど衝撃的だった。

 本書には、副題のとおり〈もう見られない世界の偉大な建造物〉の在りし日の写真が登場する。バーミヤン大仏と同じく永遠に失われたもの、一部だけ残ったもの、現段階で危機に瀕しているもの、再建・復元されたものなど計29件の物件が並び、それぞれに複数の写真と1ページの文章が編まれ、基本的な史実とデータも記されている。

 ペンシルベニア駅の旧駅舎がボザール様式の傑作だったことも、南半球初の万博のためシドニーに建造されたガーデンパレスの絢爛ぶりも、私はこの本で初めて知った。また、シリアのアレッポがいかに美しい古都だったか、一葉の写真を目にして理解した。だから、当地の現状を伝える、内戦によって破壊された中心部の写真を前にうなだれた。自然災害や風化が原因となるケースもあるが、多くの「偉大な建造物」は紛争のために消滅してきたのだ。

 不幸中の幸いは、これらの消滅遺産が写真に残ったことだろう。ビジュアルな記録があれば、たとえ細々とではあっても、過去の記憶も未来へと紡がれていくからだ。私は読後、あらためて写真の効力について考え、写真がない時代に消えていった壮麗な建造物を想像しようと試みて、すぐに諦めた。

週刊朝日  2018年5月4-11日号