3・11から7年。報道の量は年々減る一方だけど、現状は政府がいうほど楽観できるものなのか。青木美希『地図から消される街』の副題は「3・11後の『言ってはいけない真実』」。事故後の原発を継続的に取材してきた記者による戦慄の現地レポートだ。

 たとえば除染。放射性物質に汚染された草を刈ったり土を取り除いたりする作業は時限的だが、1日1万円の除染手当に引かれて釜ケ崎ほか全国から作業員が集まる。しかし、正当な手当が支払われていない作業員も多く、作業そのものの手抜きや不正も後を絶たない。急峻な坂で草や土を集めようとしたら「川に流せ」と命令される。作業に使った手や長靴を所定の洗い場ではなく川で洗う。

〈自分は、「除染をしています」という既成事実をつくるために利用されているだけなのではないか〉と悩む人。〈これじゃあ、除染じゃなくて移染ですよ〉と打ち明ける人。除染の多くは地元企業ではなく東京の大手ゼネコンが請け負っているが、人手が足りず、チェック体制は甘い。

 帰還政策も欺瞞だらけだ。原発の隣接地区は2017年春には浪江町、川俣町、飯舘村、富岡町の4町村で避難指示が解除されたが、その後10カ月で帰還した人はわずか4・3%。医療機関も満足にないのだから帰るに帰れない。

 避難指示解除の基準である年間被曝量20ミリシーベルト以下の根拠は曖昧。廃炉の見通しも立っていない。戻れば公営住宅や補助金が支給される一方、戻れない人たちの家賃補助は打ち切られる。首長の口から出る本音は〈いまの状況でいたら、町はなくなってしまいます〉。帰還の目的は人口減を食い止める「町残し」なのだ。

 除染費用の見積もりは4兆円超。〈ゼネコンに巨額の税金をつぎ込み、帰還政策のためのアリバイづくりで除染を進めるぐらいなら、生活支援を優先してほしい〉という声が出るのは当然だろう。

 厳しい現実の報道を避けた結果、国家権力の思惑通りになったと嘆く著者。想像通り、いや想像以上の内容に溜め息が出た。

週刊朝日  2018年4月6日号