「あとがきにかえて」によると、本書は2本のエッセイに挟まれた9編の小説で構成されている。その説明がなければ、読者には批評なのか物語なのかよく解らない。書きたいことを自由奔放に書いているといった印象だ。

 表題の「カストロの尻」は、登場人物の一人がスタンダール『カストロの尼』を読み違えているだけのこと。深い意味があるわけではない。

 文学、絵画、音楽、服飾、料理と様々な話題が次々に登場するが、ある程度の予備知識がなければ難解かもしれない。しかし、作者はお構いなしに綴っていく。それが小説家の「幸福」であり、読者の「快楽」であることを信じて。とは言っても読み応えは十分だ。最後に収められたエッセイ「小さな女の子のいっぱいになった膀胱について」などで本領が発揮される。

週刊朝日  2017年10月20日号