昼はコーヒーや定食、夜は本格的なカクテルを提供する新宿の「BAR(バール)追分」が舞台のシリーズ第3弾。

 計4話を収めた本書は、脚本家をめざす青年を軸に物語が進んでいく。コンクールに送るためのシナリオを書き上げた青年は、応募前にある女性の意見を聞きたがっていた……。山梨県から訪ねてきた弟とグラスを傾ける兄、一人息子を育てるシングルマザー。やがて青年は、情熱がすべての壁を打ち破ると信じ、歩み出す。お好み焼きや親子丼、ナポリタンなどの食べ物だけでなく、新宿に実在する大型書店やカレー店なども効果的に使われ、登場人物たちの息遣いがリアルに伝わってくる。

 酒場という場所で流れるゆったりとした時間に身をゆだねるなら、読後はきっと優しく穏やかな気持ちになるだろう。 

週刊朝日  2017年6月23日号