「こんな夢を見た」で始まる短編漫画集。「第三夜」は、盲目の男児を背負い、真っ暗な田舎道をゆく父子の話。「御父(おとっ)さん 重いかい」「重かあない」「今に重くなるよ」。口髭の父親は壮年の文豪の面立ちで、冒頭の何気ない会話がラスト一コマに響いていく。

 漆黒とわずかな純白のコントラストは、何物かから「逃れよう」としていた漱石の内面とリンクし、つげ義春や水木しげるの世界を連想させもする。とりわけ漫画ならではの面白さは最終話。豚の大群との格闘シーンだ。蹴散らせども「大嫌(だいきらい)」と公言する豚に迫られ、次第に断崖へ追いやられる。

 近藤は坂口安吾や折口信夫の名作を手がけてきた漫画家で、本作でも原作を忠実に再現しつつ、エッセンスを抽出している。名人が古典落語の十八番を演じるかのような完成度である。

週刊朝日 2017年3月24号