著者は過度な「感情化」こそが、現代日本の大きな特色だと語る。自分たちに心地よい感情を提供することばしか求められず、感情に対して理性を発揮することばが葬られていると。批評家である著者はそうした現状への抵抗として、あえて「不快」なことばで現代日本を切り取っていく。

 天皇の生前退位、スクールカースト、LINEなど様々な日本の構成要素に目が向けられる。その中で複合的な解釈の余地が失われている現状が語られ、例えば小説の場合、「情報」としての実用性や即効性のみが求められ、「描写」が後景化していると指摘する。

 人工知能が小説を書き始めている現在、本質的な「人間」の文学はすでになく、いずれは「感情」さえも消滅することになるかもしれない。「人間」のあり方に新たな示唆を与える一冊だ。

週刊朝日 2016年12月23日号