天皇の「生前退位」の是非にからんでにわかに注目を集めることになった皇室典範。島田裕巳『天皇と憲法』は、この皇室典範と憲法の関係を軸に「緊急出版」されたタイムリーな提言の書だ。
 憲法改正といえば浮上するのはやはり9条。が、本書は9条の改正には消極的だ。国際情勢が変化しているとはいっても、〈大日本帝国憲法を制定する際には、日本は近代国家の樹立を目標とした。日本国憲法を制定する際には、軍国主義から民主主義への変容を迫られていた〉。ひるがえって〈今、そうしたことに匹敵するような事態に日本が直面しているとは言えない〉というわけだね。
 にもかかわらず、私たちはいま憲法を改正する必要に迫られている。なぜか。天皇制が存亡の岐路に立たされているからだ。
 現在の皇室典範は、側室も養子も認めず、なおかつ皇位継承者は男系の男子のみと定めている。おかげで皇位継承はきわめて困難な課題になった。仮に天皇の生前退位が実現し、現皇太子が天皇になったら、皇位継承者はいまより減る。さらに秋篠宮や悠仁親王が皇位を継承した後は? 新たな継承者が誕生するといいきれる? 女帝や女系を認めたところで本質的に不安定さは変わらない。
 天皇家でなくても家の存続は難しい時代ですからね。〈近代という社会の根本的な変化が、長く続いた天皇という地位が継承されていくことを不可能にしようとしている〉のは事実だろう。
 ではどうするか。島田案はこれ。〈できることは、憲法を改正して、日本にも大統領制を導入することである。現在、天皇の国事行為とされていることの大半を大統領の果たすべき役割とするように、新しい憲法で定めるのである〉
 ええーっ、マジで!?
 憲法1条を改正して共和制にすべきだと主張する人はこれまでもいたけれど、それはイデオロギーに基づく願望に近かった。が、本書の提言は現実論の上に立つ。首相とは別に大統領を選挙で選ぶ。一見爆弾発言。でも、論理的には正しい。いや、目が覚めました。

週刊朝日 2016年11月11日号