夫を亡くし、イタリアから帰国したのちの随筆家が心を許した友人に宛てて綴った書簡集。便箋にびっしりと綴られた青インクの筆跡や封筒の表書きが写真に収まる。
 娘ほども年の離れた「おすまさん」に書く。怠け者で、まったく仕事をする気がなくて、と論文が書けないことを嘆き、「鏡にうつった私の顔はインテリ女みたいだったので心からぞっとして助けてくれというかんじでした」。イタリア政府から功労章を受けると、「私はクンショーよりも馬の方がほしいくらいだったのですが、そんなワガママはきいてもらえないらしくて」。故意に、アメリカにかたくなに背を向けて生きてきたことを残念がる。あるいは、イタリアを去って、自分はむだな年月を過ごしたのではないかと恐れていたことを吐露。筆は少女のようにのびやかだ。

週刊朝日 2016年7月15日号