ケチャップ・シンドローム

文庫・新書イチオシ

2015/12/10 12:03

 本作は「とりかえしのつかないこと」をめぐる物語である。思い出すたび胸をしめつけるような後悔は、みんなひとつぐらい抱えているものだと思うが、本作のヒロインが抱える後悔は、かなり深刻なものだ。
 絶望の淵にいる彼女がはじめたのは、なんと死刑囚との文通。日本では馴染みがないが、アメリカには受刑者のペンパル募集サイトがあるそうで、彼女はハリスという男にゾーイという偽名を使って手紙を書き送るようになる。名前だけでなく住所も嘘だから、当然のことながら返事はもらえない。しかし、だからこそゾーイは本当のことが書けるのだ。
 ことの発端は、ゾーイとマックスの恋愛。かなりイケている男子高生・マックスが、目立たないゾーイに接近する。浮かれるゾーイ。しかしゾーイには他に気になる男子・アーロンがいる。だが、彼はマックスの兄なのだ(三角関係!)。そもそも恋愛スキルのないゾーイが、この状況をうまく切り抜けられるハズもない。それに加えて、ゾーイの家庭も問題だらけ。支配的なママが、リストラされたパパをなじり、子どもたちから自由を奪ってゆく。恋人も家族もいるのに、ゾーイはずっと孤独だ。
 やがて起こる「とりかえしのつかないこと」が何なのかは伏せるが、ゾーイがそのことを9カ月かけて書く途上で、ハリスの死刑執行日が決まる。生きていくゾーイと死にゆくハリスが強烈なコントラストを描くクライマックスを駆け抜けると、アーロンとドット(ゾーイの妹)の文章が登場。ある種の癒やしとして読者を出迎えてくれる。苦くて甘いような、辛いけど満たされるような読了感。これぞ青春である。
 ちなみにこの作品、早川書房と昭和女子大が立ち上げたレーベル「my perfume」の第1弾。女子大生とコラボするのであれば、もっとハッピーな作品を選ぶこともできたろうに、そうしなかったところに、早川&昭和女子大の本気を感じた。第2弾も楽しみだ。

週刊朝日 2015年12月18日号

ケチャップ・シンドローム

アナベル・ピッチャー著、吉澤康子訳

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ケチャップ・シンドローム

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