メールは相手にいつでも出すことができる。ゆえに、読んだ相手の気持ち、反応(返信)が気になる。この作品は、恋愛小説の名手とも呼ばれる2人の作家による100通の往復メールで構成された恋愛小説だ。
 パリで出会った男女が帰国後、メールを送り合う。当初は書いていた件名が次第に“無題”になり、親密になっていく様子や、未送信のままになっているメールの存在が気になってしまう様子が、行間からにじみ出てくる。酔った勢いで打ったメールや真夜中に打つメールについての心境なども綴られ、メールならではの特性を十分に生かしつつ、2人の著者は“静かな想い”をつなげていく。
 生きていくことの痛みも苦さも経験した大人の男女が、メールに込める言葉は、優しく、さりげない。抑制の利いた大人の言葉を“臆病”と呼ぶか、“思いやり”と呼ぶかは読む年代によって様々であろう。大人の恋と聞くと、悲しい別れのエンディングを予想してしまいがちだが、この物語は希望で終わる。爽快な読後感を味わえる一冊である。

週刊朝日 2015年10月2日号