いろいろ出てるタカラヅカ歌劇関連の本の中ではいちばん面白かった。世にあふれるタカラヅカ本は「こんな異様な世界!」と見世物にするか、「ハマってみると面白い、男性も怖がらないでね」と誘ってくるかであって、「またコレかよ~」感はハンパない。
 しかし本書は、タカラヅカの中にいた人の事務的な話なのだ。つまり、興行団体としていかに運営していくか、という面から見たタカラヅカ。こういうのが読みたかった。
 女だけの劇団で女が男役をやってキャーキャー騒がれる、ということがタカラヅカの特色と捉えられているが、それよりもっと「他に例を見ない」ことは、自前の養成機関を持ちそこを卒業した者のみが所属する大劇団で、さらに制作も演出も自前で、五つの組が順繰りに上演していく、ってことだ。ある演目がいくらウケようが、上演期間が終われば次の組の公演になるし、その逆でも期間中はきっちり上演が続く。人気だからといってロングランはないし、不人気だからって打ち切りも一切ない。興行としてすごく不合理なこの興行形態が、「作品の出来不出来より、いかにスターが“立っている”かということが主眼とされる」という特殊な作品づくりにつながってることがよくわかる。
 その他、組のプロデューサーとして体験したいろいろなエピソード(スターがらみではなく、運営上の)がいちいち興味深い。全国ツアー公演に持っていく演目をどうやって決めるとか、そういう話。「知らない世界の話」としても面白く読めるように書いてある。
 これを一種のビジネス書として読むことも可能かもしれないが、でも、読めば読むほど特異性が際立って、他のビジネスに転用できる話じゃないと感じる。だからタカラヅカとAKB48との類似点と差異を書いた後半部分については、別になくてもよかったんじゃなかろうか。AKBともぜんぜん違うよタカラヅカ。

週刊朝日 2015年5月22日号