著者は大宅壮一ノンフィクション賞受賞作『プロレス少女伝説』や『同性愛者たち』などで知られるノンフィクションライターだった。2001年に44歳で夭折した後、作品は次々に絶版になった。それを惜しんだ編集者が作品を編み直し、復刊した。版元の「里山社」は、その編集者が昨年、一人で設立した出版社だ。
 本書には、長篇ノンフィクション三作を中心にエッセイや詩が収められている。内容は劇的ではない。代わりに取材相手の日常生活や人生を深く掘り下げる。根気強く言葉を引き出す一方、取り巻く現実を注意深く見つめている。女子選手たちに質問を重ねてプロレスの魅力を聞き取り、若い同性愛者たちと多くの時間を共にし、彼ら彼女らを特別の存在ではない市井の人間として描き出した。
 著者は時折文章に顔を出し、取材相手への戸惑いを隠さず書く。その率直さは、取材対象にぐっと近づいたような感覚を与えてくれる。澄んだ、性能のいいレンズを通して世の中を覗くような気分になる本だ。

週刊朝日 2014年10月24日号