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神国日本のトンデモ決戦生活
2014/04/02 16:44
戦時中の日本は「トンデモ」な言説にあふれていた。早川タダノリ『神国日本のトンデモ決戦生活』はそれらを渉猟しまくり、いちいちツッコミを入れていくという、それだけの本である。なんだけど、ありとあらゆる印刷物から戦時の言葉をサルベージする情熱は半端ではない。
「八紘一宇」のスローガンの下でアジアへの侵略を進めていった日本。「大東亜戦争一周年」の特集を組んだ政府広報グラフ誌「写真週報」(昭和17年12月)に載った世界地図は連合国側と枢軸国側に塗り分けられ〈われわれはこの世界地図が枢軸色一色に塗り潰される日まで、断乎として戦ひ抜く決意を持つてゐるのだ〉という勇ましい文章が躍る。まるで〈世界征服をたくらむ悪の秘密結社の首領レベル〉。
婦人雑誌も負けてはいない。昭和19年の「主婦之友」には〈『台所の要塞化』こそ、その責任者たる主婦の喫緊の重要業務である〉。「婦人倶楽部」では〈今日は衣料も兵器です。私どもが新調を見合はせれば、それに要する人手も資材も兵器の方に廻して頂くことが出来て、大きなご奉公となるのです〉。「産業戦士」を教育するための『戦時安全訓』という本には〈大和魂にみがきをかけて生産戦を戦ひぬくことである〉という〈トンデモ精神論〉が掲げられ、習字には〈皇国ノ興廃コノ一戦ニ在リ〉などの言葉が選ばれる。〈アメリカ人をぶち殺せ〉〈アメリカ人を生かしておくな〉などの標語が普通の顔で雑誌を彩る。たしかにねえ。〈こんな神がかりぶりなのだから、やっぱり日本は負けるワケである〉。
「日本を、取り戻す。」という現政権のスローガンも現下の偏狭なナショナリズム運動も、これと同類だと著者は看破する。戦時中に猖獗をきわめた「日本主義」に対する批判が不徹底だったことが、今日の〈トンデモ系ナショナリズム運動〉を復活させたのだと。そうだよね。こういう文言は徹底的にあげつらい、笑いのめし、こきおろして殲滅しないと。
※週刊朝日 2014年4月11日号
神国日本のトンデモ決戦生活
早川タダノリ著


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