昔、NHKの朝番組では、今では考えられないようなものが紹介されていた。ある時は数年間連続で「H氏賞」(現代詩の賞)受賞者が出てきて詩の朗読をしていた。ねじめ正一が出てきて、詩の内容は忘れたがその「詩人の朗読」があまりにも印象的でよく憶えているのである。同じような時期に「外国の有名なコンクールで優勝したピアニスト」が登場して、それが清水和音という人であった。
 若くきれいな顔でおまけに名前が「音楽をやるためにつけられた」ような「和音」、それが「かずね」っていうんですから。おまけにこの人は「男性」! ちょうどくらもちふさこの名作マンガ『いつもポケットにショパン』が連載されていた頃でもあり、美少年の清水和音がNHKに登場した時には色めきたちましたよ! 清水和音はやがてどこかに行ってしまったのだが(私の中でです)、ずっと心にひっかかっていた。今どうしてるんだろうかと。
 この本で紹介されてました。
 実に下世話な興味から手に取った次第ですが、ほぼ知らない世界について詳細に書かれたものを読むことになった。清水和音と数人の有名ピアニスト以外、名前すら聞いたことない。私など読んでいてまったく意味がわからないことが頻出する(何せクラシックに暗いもので)。知らない世界の知らない人について深く書かれたものを読むのはたいがい苦痛なもんですが、この本はそうでもない。全体にクールなのに、詩的な文章だからか。
 清水については、「清水和音というピアニストの演奏が膨大な音符を費やし、なお清らかに凜として残っていくのは、そこにひとつの生き様が熱く強かに流れているからだ」と書く。一方、機械の説明をしてるような箇所もあって、それを読みながらピアニストが出す音を想像するのは楽しい。
 さて、清水和音さんですが、写真が一葉ついていて、ツェッペリン解散後のジミー・ペイジによく似ていて、いろいろと納得ができた。清水さんのCDを買おう。

週刊朝日 2013年12月20日号