海を泳ぐ魚の中で最高速を誇るカジキ。彼らはいかなる仕組みであの驚異的スピードを生み出すのか。カジキの背骨の生体力学を研究する生物学者が魚型ロボットを製作、ロボットを進化させ、その道筋から謎を解き明かそうとするユニークな研究である。
 タドロと呼ばれるロボットは、遺伝子をプログラムしたコンピュータと推進力となる尻尾を備えたオタマジャクシ型。餌(実験では光源)を追わせ捕食者を放って、彼らの能力がどう変わるかを見るのだが、驚いたことに数世代を経ると餌を追う能力と、推進力を左右する尻尾の硬さにはっきりと変化が現れる。
 ところが、途中で仮説とは正反対の予想外の結果が出るわ、実験の要となる脊椎骨の製作には四苦八苦するわ。ガックリ自信を失ったという人間的な心情を吐露していて、研究成果よりむしろ、ああでもないこうでもないと試行錯誤する実験過程が面白い。
 また、すべてのロボット研究は軍事利用に行きつくとも書いている。「戦場で自己複製し、進化する大量のロボット兵」という不快な未来がすぐそこにあることに愕然。

週刊朝日 2013年10月25日号