民主党・海江田万里代表のもうひとつの顔は玄人はだしの漢詩愛好家である。昨年の衆院選大敗後、新代表に選ばれた際にも「将軍功盡萬兵斃/粉骨砕身全此生」(将軍は功が尽き、万の兵が倒れた。この上は粉骨砕身、生を全うしたい)という自作の漢詩を披露して満場のため息(だと思う)を誘ったという。
 そしてまた今度の参院選敗北。代表自身は「改革は道半ばで、まだまだ泥水をすすらないといけないのかなという思いだ」(このへんの言い回しも漢詩っぽい)と続投を表明するも、もはや満身創痍の民主党。特に計ったわけでもなかろうが、氏の選詩と解説による『水彩画で楽しむ漢詩紀行』(画家の王昭氏との共著)を開くと、いまの民主党と重なるフレーズばかりで泣けてくる。
 以下、読み下し文だけで行きますが、〈日月忽(にちげつこつ)としてそれ淹(ひさ)しからず/春と秋とそれ代序(だいじょ)する〉(月日は過ぎてじっと留まることはない/春と秋は交互にやってくる)(屈原(くつげん)「離騒(憂いに遭う)」)は作者の屈原が失脚して憂いに沈んでいたときの作品。たしかになあ。6年前の参院選は我が世の春だったのに(涙)。
〈黄沙百戦金甲を穿(うが)つ/楼蘭(ろうらん)を破らずば終に還(かえ)らじ〉(黄沙が飛び交う戦場で重なる戦に身に着けた金(かね)の鎧もぼろぼろになった/しかし 楼蘭を打ち破らなければ国には決して還らない覚悟だ)(王昌齢「従軍行(遠くの戦いへ行く)」)は漢軍の戦を詠んだ作品。雄々しい詩だが大見得を切っているのが逆に痛々しい(涙)。
〈落紅はこれ情なき物にあらず/化して春泥となり更に花を護る〉(道に落ちた赤い花は情がないわけではない/春の泥となってやがて咲く花を守るのだから)(●自珍(●は龍の下に共、きょうじちん)「己亥(きがい)雑詩(己亥の年に思う)」)は悲憤の歌。落紅とは老いゆく自分のこと。春泥となって次代の養分になれって、わっ、これは菅直人元首相に贈る歌?
 2008年、党が政権奪取を狙っていた頃の本。人生の黄昏を憂えた作多し。微妙に「潔くない詩」が多い気がするのは私の偏見でしょう。

週刊朝日 2013年8月9日号