当代きっての小説家・批評家ら10人のオーバーデコラティブな賛辞が並ぶ帯を見て、ちょっと引いた。
 いや、いいんですよ。松田青子『スタッキング可能』は、実際、超絶おもしろい短編集だから。
 ただ、新人作家を褒めちぎりすぎるのも考えものだ。一昨年の芥川賞受賞作・朝吹真理子『きことわ』も同じ目にあった。今期芥川賞受賞作・黒田夏子『abさんご』もそうなる可能性あり。つまり「なんで激賞されてんのかわかんない」「そもそも作品がわかんない」という読者の反発を招きかねない。『スタッキング可能』は(先の2作も)皆さまが考える「ノーマルな小説」と流儀の異なる前衛的な作品だからだ。
 まず、本をお買い求めになったら表題作はスルーして、「ウォータープルーフ嘘ばっかり!」と題された3つの連作を読んでみよう。これはね、何を隠そう、漫才の台本なんです。それも女子漫才。ハリセンボンでもアジアンでも北陽でもいい、このまま演じてほしい。またはこれを演じる女性漫才師をデビューさせたい。〈私たち[ちふれ]は戦う女性の味方です!〉。コンシーラーだのネイルだの「パール1個分」だの、コスメまわりのネタは、もう「あるある」感がいっぱい!
 肩があったまったところで「もうすぐ結婚する女」を読む。題名通り「もうすぐ結婚する女」を「私」が観察する話だが、あれあれあれ、途中であなたは必ず驚く。「私」って誰!? 「私」は1人なの? 松田青子は企みに満ちた作家なのだ。
 そしてようやく表題作。松田青子のアバンギャルドな流儀に慣れたあなたなら、きっと読みこなせる。書店のポップには「職場にオランウータンがいる『あなた』のための小説です」とあった。みんな戦う勤め人。オフィスに渦巻く声なき声が怒濤のように押し寄せてくる。
 上に掲げたのは、くだんの漫才台本の一節。このフレーズを叫びながらデモをしたい。「資本主義を打倒するぞ!」の意味である(たぶん)。

週刊朝日 2013年2月22日号