生活保護バッシングがこの頃盛んである。マトモに働きもしないで生活保護もらってパチンコやって遊んでる社会のクズ、あるいはうつ病とか称してマトモに働かず会社休んで周りに迷惑かけてる社会のクズ、などの撲滅が叫ばれている。和田さんは、それに対して「ちがいます」とはっきり書いている。生活保護バッシングすることが結局は暮らしづらい世の中にしちゃうことなんですよ、と。私は和田さんの本を初めて読むのですが、見た目だけで「東大医学部卒でちょっと顔がいいチャラチャラしたマスコミ医者」と思っていたことを反省します。内容については何も言うことがない。
 気になるのは、本のタイトルを見て「あ、これは生活保護バッシングについて批判する本だな」とわかって、その批判を読みたくて手に取る人がどれぐらいいるのか、ということだ。読んで「ほんとになー、生活保護批判て、いつ自分がそれをもらう立場になるかもわからんのに」と思う人がどれだけいるか。あるいは「ああそうか、確かに生活保護批判とかしてる場合じゃねえわ」と思う人がどれだけいるか。
 なんでそんなことを言うかというと、これが20年ぐらい前だったら、この本に書いてあることは常識と考えられていた気がするからだ。昔もそれなりに生活保護とか、国が個人に対して保護や支援をすることに文句をつける人はいた。しかし文句つけつつも「こりゃ通らねえよなー」という半笑いのようなものがあったと思う。今はどうも、その頃のソレとは雰囲気が明らかに違っていて、マジで「生活保護撤廃!」が世界の正義だと思い込んでいる人数が増えているようで、ブキミだ。
 和田さんは「生活保護についての誤った情報を大きな声で言っているのは誰か?」と問うているが、それを読んで和田さんを「陰謀論を語る男」扱いする人間がいるだろう。その数は千人なのか1万人なのか10万人なのか。まったく想像もつかない。あんまり知りたくない気もするが。

週刊朝日 2012年11月16日号