なぜ、現代アートは病んでいるのか? 写真家・下瀬信雄の軽やかな挑戦 (1/3) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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なぜ、現代アートは病んでいるのか? 写真家・下瀬信雄の軽やかな挑戦

撮影:下瀬信雄

撮影:下瀬信雄

写真家・下瀬信雄さんの作品展「鬼魅易犬馬難」が1月19日から東京・新宿のニコンプラザ東京 ニコンサロンで開催される。下瀬さんに聞いた。

【写真】下瀬信雄さんの作品

「『歌仙を巻く』って、ご存知ですか?」

 土門拳賞作家の下瀬さんに、「今回はどんな写真展なのですか?」と、たずねると、こんな言葉が返ってきた。

 2人以上の詠み手が五・七・五の長句と七・七の短句を順々に36句つくり、それを一つの環のようにする。これを「歌仙を巻く」と呼ぶ。

「前の句と関連があるようでないものとか、非常に転調するものとか、イメージを膨らませながら、みんなで歌仙を巻いていく。あれによく似たものを写真でつくりたい、ということがあったんですね。初めての試みなんですけど」

 日常のなかで出合ったもの、旅先で出合ったものなかから一つのイメージをつくる。

「1枚だけでそれが完成することもあるし、複数の写真で塊としてのイメージをつくることもある」

 さらに、それに続くイメージをつくっていく。それを繰り返すことで大きな写真の物語の展示をつくった。

「連なったイメージが反発しあったり、転調したり。主旋律を変えてみたり、途中でリズムが変化したり」

 写真展らしからぬ「鬼魅易犬馬難」という題名。何やら呪文のようだ。声に出して読んでみる――きみはやすしけんばはかたし。

 下瀬さんと同じ山口県出身の洋画家・松田正平は「犬馬難鬼魅易」を座右の銘としていたという。

「それをよく短冊に書いていたんですね。それで、『そうか、そうか』と、題名にしようと思ったんです」(前後を入れ変え、ひねってある)。
撮影:下瀬信雄

撮影:下瀬信雄

鬼やもののけのように、おどろおどろしいものは写真にしやすい

 中国、戦国時代の法家であった韓非は『韓非子』という書を綴った。そのなかに記された逸話が「犬馬難鬼魅易」で、それはこんな話だという。

<斉王が画工に「何を描くのが難しいか」と問うたときに「それは犬や馬です」と答えた。「では何を描くのが容易か」と問うと「鬼や、もののけです」と答えた>(写真展案内から)

「つまり、誰もがよく見知っているものは写真の題材になりにくいし、そこにキラリと光るものを見つけるも難しい。逆に鬼魅のようにおどろおどろしいものは写真にしやすい。インパクトがあってね。で、松田正平に遠く及ばない私は、日常の中にある妙なものを探して歩く」

 下瀬さんいわく、街中でスナップ写真を撮っていると「鬼魅がたくさん出てくる」。

「銀座のショーウインドーは全部鬼魅なんですよ。ちょっとおどろおどろしく、キモかわいいものがあったり」

「いま、はやりの映画『鬼滅の刃』を見ていたら、キャラクターがみんなそう。おどろおどろしくして、目を引いて。いわゆる『ジェットコースター映画』。一方でしっとりした映画もある。家族のちょっとした機微を描いた作品も見直されて、小津安二郎作品に似た映画もできているわけです」

 街を歩いていると鬼魅が面白いので、そればかりを探して写す。スナップ写真ではありがちな話だ。

「だけどそれだけじゃなくて、日常のなかのちょっとしたものにも本当は深いものがあるはずなので、それをミックスしながら物語をつくっていけないかな、と」

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