美容皮膚科は民間の病院が中心で、これまで大学病院は珍しい皮膚疾患や皮膚がんを診療して積極的に美容を扱ってきませんでした。そんななか、2021年に近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授に就任した大塚篤司医師は、近畿大学皮膚科に美容チームを作り、積極的に美容に関する臨床や研究に取り組んでいるといいます。その真意について、大塚医師が語ります。

【図版】ほくろと皮膚がん(メラノーマ)を見分ける1つの特徴は左右対称かどうか

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 大学病院で勤務していると、専門が皮膚科でありながらも美容に関する診療は、どうしても後回しになってしまいます。それは、大学病院に集まる患者さんが、珍しい皮膚疾患や、手術や抗がん剤治療が必要な皮膚がんであるためです。そのため、美容皮膚科を学ぶとしても、大学で勉強することができず、民間の病院で研修することになります。

 大学病院から見た美容皮膚科の印象は、決して良いものではありません。また、多くの大学病院では美容皮膚科を取り扱っていません。さらに、美容皮膚を専門としたい若手医師を積極的に育てようという意識はありません。かくいう私も、近畿大学皮膚科に移るまでは、美容に対する意識は決してポジティブなものではありませんでした。多くの大学病院関係者と同じように、うさん臭いものとして捉えていたところがあります。

 さて、そんな私が2021年に近畿大学皮膚科の教授となり、美容チームをつくりました。美容に関して、積極的に臨床や研究に取り組んでいるのはとても不思議なことに違いないでしょう。近畿大学皮膚科では、いくつかの疾患に重点をおいて取り組んでいますが、いまでは、アトピー性皮膚炎や皮膚がんと並んで美容も大きな柱の一つになっています。

 一見華やかに見える美容の世界ですが、そこには大きな闇と問題が隠れています。まず、命に関わる問題として、「顔のシミをレーザー治療していたら実は皮膚がんだった」という誤診が存在することです。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)
※写真はイメージです(写真/Getty Images)

 顔にできるシミにはいくつか種類があります。そばかすや肝斑(かんぱん)、老人性のシミに加えて、ほくろのがんと呼ばれる悪性黒色腫や、頻度の高い基底細胞がんがあります。皮膚がんに対して、レーザー治療を行った場合、見た目は色が薄くなり良くなったように見えます。しかし、レーザーでがん細胞を完全に殺すことはできないため、いずれ再発します。レーザー治療を繰り返すうちに、初期のがんが進行し、気がつけば内臓に転移ということもあります。美容皮膚科での誤診によって、命を危険にさらすこともあるのです。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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皮膚がんとの区別は、皮膚科専門医を取得した医師でないと難しい