先日、デリヘル経営者に話を聞く機会があった。彼が言うには、女性の多くが「バニラを見てきた」と言うそうだ。街に立つスカウトが連れてくる女性のほうが多かった時代もあるが、スカウトへの規制が厳しくなった今は、バニラの役割は大きいという。そのデリヘルでは毎月20万円をバニラに支払っているというが、多くの業者がバニラと無関係でいられない今、バニラが得る収入は莫大なものだろう。

 東京都は、公益社団法人「東京屋外広告協会」がラッピング車のデザイン審査をし、承認した車の走行を認めてきた。バニラは東京都の承認を受けてはいないが、都外のナンバーであれば「東京都を横切っている」という名目で走行できたのだ。今年、東京都は都外ナンバー車も審査対象にする方針を固めたというので、今のままのバニラカーが走り続けるのは難しくなるといわれている。そのためバニラカーがなくなることを惜しむような声も聞かれるが、そもそもバニラカーが風景になっていた街は、どれだけ多くの人々の意識を変化させたことだろう。1992年から今にいたる30年のあいだ、性産業は昭和時代よりもさらに細分化し、働く女性たちはさらに若年化し、性産業そのものは風景化し続けている。

 昼でも夜でもいつでも、子供たちもフツーに歩く街中で「性産業にいらっしゃーい」と、バニラは女性たちに呼びかける。バニラを通してお店に入ったら、入店お祝い金が出るよ、出勤ボーナスも出すよ、最大2万5000円あげちゃうよ! 抽選で10万円もあたるよ! とバニラはあま~い話をもちかけてくる。それは風俗と女性たちをつなぐ大きな門だ。常に新しい「商品」「在庫」が必要な業者にとって、それは命綱ともなる門だろう。そして、キラキラとコーティングされた巨大なその門がある限り、買春する男たちは「ここは女性たちが自ら選んだ金になる世界」として安心して買い続けられるだろう。実際、買春男たちはのんきだ。女性と恋愛し、まるで彼女の人生を金銭で応援しているような気分の男性は珍しくない。「いいことしている」気分も味わえたうえに射精もできる、夢のようなエンタメスペースのようだ。

次のページ
「あれは『仕事』ではなかった」という女性たちの声