【5】防犯ブザーを持つべし

「笛をすすめる声もありますが、私は役に立たないと思います。本当の恐怖にさらされたその瞬間に、呼吸を整えて笛を吹く、という動作ができるでしょうか」と小山さん。軽く引っ張るだけで音が出る防犯ブザーのほうが実用的。寝るときに手が届く場所にぶら下げておくと安心だ。

 この他、小山さんが知っている女性ソロキャンパーたちがとっている対策としては、男性用の靴をテントの入り口に置いて1人ではないことをにおわせたり、男性に話しかけられたら、「後で彼氏が来るんですよ」などと男性の影をちらつかせたりしておく、などがあるという。

 また、ネットなどでは刃物や催涙スプレーの携帯をすすめる声もあるそうだが、小山さんはその効果をきっぱり否定する。

「笛と同じ考え方ですが、絶体絶命の恐怖にさらされたとき、女性1人で刃物を使って反撃できますか? 使い慣れていないから、逆に自分がケガをしてしまう可能性もありますし、相手を殺傷する可能性だって否定できません。催涙スプレーも、ピンを抜いて風向きを考えて相手に命中させる、という作業がそのときにできるかどうか。非常に難しいと思います」(同)

 安易に“武器”に頼るよりも、管理人にあいさつに行くなどの基本的な対策を守った方が安心につながる。

 小山さんは、たき火の跡を放置したまま帰ったり、たき火の跡の炭を埋めて帰ったりしてしまう「たき逃げ」と呼ばれる行為をやめるように小山さんはずっと呼びかけ続けているが、「俺たちのころは(たき逃げは)当たり前だったんだ!」と、年配のキャンパーに強い言葉を浴びせられることもあった。キャンプの流儀をめぐるあつれきは解消し切れない。

 ただ、肌感覚としては、キャンパーたちのマナーは改善されてきていると感じているという。

「ソロキャンプをやってみたいという女性はたくさんいると思います。今後はキャンプ場側が、女性が安心して入れるトイレなどを整備していく必要があります。また、女性が安心して静かにソロキャンプを楽しめるよう、男性たちが黙って見守ってあげる環境をつくることが大切だと思います」(同)

 1人で過ごす極上の時間。それを守るには、同じ場所で過ごす人の心遣いが大切なのだろう。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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