中内啓光(スタンフォード大学医学部教授)/スタンフォード大学医学部 幹細胞生物学・再生医療研究所・教授。東京医科歯科大学高等研究院 卓越研究部門・特別栄誉教授、東京大学名誉教授1978年に横浜市立大学医学部を卒業。在学中にサンケイスカラシップ海外奨学生として1年間ハーバード大学医学部へ留学し、マサチューセッツ総合病院やブリガム病院等で臨床研修を受ける。1983年に東京大学大学院医学系研究科より免疫学で医学博士号を取得後、スタンフォード大学医学部遺伝学教室博士研究員として留学。帰国後、順天堂大学、理化学研究所、筑波大学基礎医学系教授を経て2002年より東京大学医科学研究所教授に就任、2008年より東京大学に新しく設置された幹細胞治療研究センターのセンター長並びに東京大学iPS研究拠点リーダーを務める。2014年からStanford大学教授を兼務。2022年3月で東京大学を定年となり4月より東京医科歯科大学高等研究院に移動し、引き続き日米両方の研究チームを率いて研究活動を行っている。大学院時代より一貫して基礎科学の知識・技術を臨床医学の分野に展開することを目指している。
中内啓光(スタンフォード大学医学部教授)/スタンフォード大学医学部 幹細胞生物学・再生医療研究所・教授。東京医科歯科大学高等研究院 卓越研究部門・特別栄誉教授、東京大学名誉教授1978年に横浜市立大学医学部を卒業。在学中にサンケイスカラシップ海外奨学生として1年間ハーバード大学医学部へ留学し、マサチューセッツ総合病院やブリガム病院等で臨床研修を受ける。1983年に東京大学大学院医学系研究科より免疫学で医学博士号を取得後、スタンフォード大学医学部遺伝学教室博士研究員として留学。帰国後、順天堂大学、理化学研究所、筑波大学基礎医学系教授を経て2002年より東京大学医科学研究所教授に就任、2008年より東京大学に新しく設置された幹細胞治療研究センターのセンター長並びに東京大学iPS研究拠点リーダーを務める。2014年からStanford大学教授を兼務。2022年3月で東京大学を定年となり4月より東京医科歯科大学高等研究院に移動し、引き続き日米両方の研究チームを率いて研究活動を行っている。大学院時代より一貫して基礎科学の知識・技術を臨床医学の分野に展開することを目指している。

筒井:日本は近代化後発国として、明治維新以降欧米の進んだ制度を取り入れて、大きな成功を収めてきました。ところがバブル期以降あたりから、日本型の政治経済モデルが成熟してきたなかで、自分たちの成功体験に囚われてか、外のモデルをうまく取り込むことが苦手になってきたのかもしれません。

 たとえば、日本の企業は1990年代後半、アメリカをまねて成果主義の賃金体系を導入しようとしました。しかし、年功序列を完全に打ち破ることはできず、賃金体系は今もほとんど変わっていないという状況です。

 実は、アメリカは相当特殊な国なのです。だから成果主義に限らず、アメリカでうまくいっている制度だからといって、それをそのまま日本にもっていってもうまくいかないことはたくさんあります。私のような社会科学者の仕事は、そういう制度改革の種を分析して、どういうふうに微調整を加えればうまく日本に根づくのか考えることだと思います。

 他国でうまくいった制度を取り込むことの難しさは、なにもアメリカと日本の間に限りません。新制度論と呼ばれる社会学の分野での重要な知見は、外から取り入れたシステムはその国のそれまでの慣習や実際の社会的要請などとの間に齟齬を起こしやすく、「デカップリング」と呼ばれる制度と実践の乖離が起きやすいというものです。

 たとえば、人権の仕組みです。第二次大戦後の国際社会では、人権が世界共通の普遍的なものだということで、世界のどこにでも同じ考え方をもっていかなければ駄目だという発想でずっとやってきました。それで多くの政府が国際人権条約を批准したり国内人権機関を作ったりするわけですが、ただ国際的な人権規範をそのまま当てはめようとするだけでは、社会のあり方が違う国・地域では、うまくいかないことが多いわけです。女性の権利や子どもの権利に対する考え方が違う国・地域で、国際基準を押し付けてもうまくいかない。そういうことがようやくわかってきました。

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