ただ最近は、官庁が民間の識者の意見をしっかり受け止める場面も増えていますし、専門の分野をもっている若手の政治家も増えてきています。それもあって以前よりは風通しが良くなっている傾向はあると思います。ステークホルダーたちと対話を重ねる「アジャイル・ガバナンス」の意識も出てきていると思います。

 たとえば、スタートアップ税制の改革では、政府がちゃんと民間と対話しながら制度を直そうとしていることを、官僚の側からも民間の側からも聞きます。危機感をもつ人が増えれば、さらにいい方向に行くことが期待できます。

中内:外国にいると日本のことが非常に心配になります。残念ながら日本のなかにいる人にはそういう危機感がないように見える。そこが実に歯がゆいところです。

 私がはじめてスタンフォードに留学したのは30年以上前です。そのころは日本人がたくさんいて、他のアジアの人はあまりいなかった。今はまったく様変わりして、日本人が非常に少なくなって、中国人とインド人が大勢います。中国から来た学生も優秀ですが、特にインド人は、IT産業が大学のまわりにあるので、学内だけでなく学外にもたくさんいて、非常に優秀です。

 シリコンバレーには、世界中から優秀な人たちが集まっています。私は以前、日本人は優秀だと思っていましたが、最近は非常に自信をなくしています(笑)。日本人は言われたことをきちんと丁寧にやるという点では、今でも優秀です。しかし、たとえば大学で本当にイノベーティブなトップクラスのサイエンスをやっているかと問われると、まったく影が薄くなってしまいます。文化的な背景もあるとは思うのですが、とても残念なことです。

 日本という狭い国から出て、いろいろな国を訪れ、いろいろな人に会い、いろいろな経験をする人がもっと増えてくれたら、日本の社会は少しずつ変わっていくと思います。数日の観光旅行では無理でしょうから、外国の学校でも会社でも何でもいいので、ある程度長い期間日本から出て、日本を外から見て、外国に人脈を作ってほしいと思います。

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