ベンチャー・エコシステムは、スタートアップ企業に投資して、将来その株式を売却することで利益を得る「ベンチャーキャピタル」と呼ばれる投資会社と、スタートアップ企業、銀行で構成される。

「まず、低金利で安く資金を調達したベンチャーキャピタルがスタートアップ企業にどんどん投資しました。すると、スタートアップ企業が増える。そのスタートアップ企業の資金や利益を預かっていたのがSVBです。ふつうの銀行は預金を貸し出して利益を得ますが、SVBの場合、この預貸率が低かった。つまり、証券投資に依存しており、その多くが債券だった」

法人客は「足が速い」

 2008年のリーマン・ショック以降、FRBは基本的にゼロ金利政策をとってきた。

 ところが、21年、コロナ禍でありながら米国経済が再始動すると、インフレ率は急上昇した。それを抑えるために昨春、FRBはゼロ金利政策を終了。市場の予想を上回る速度と大きさの利上げを繰り返してきた。

「FRBが利上げに転じると、それまで活発にまわってきたベンチャー・エコシステムの動きが鈍くなった。資金調達が難しくなったベンチャーキャピタルの投資が減少した。それでもスタートアップ企業は事業を継続していかなければなりませんから、その資金を得るためにSVBからどんどん預金を引き出した」

 SVBの資産の多くは債券だった。満期まで保有していれば十分な利益が得られるが、多額の預金引き出しに耐えられなくなったSVBは債券を満期前に売却しなければならない事態に陥った。

「個人客と違って、法人客は『足が速い』。要するに、状況が悪化すると、預金をどんどん引き出していく。経営の足腰の弱いスタートアップ企業はさらに足が速いです。でないと事業がまわらないですから。それに対応するため、SVBは債券の売却を急いだ。それがここ1年ほどの状況です」

 金利と債券価格は逆の動きをする。これまでは低金利がずっと続いてきたので、保有債券の価格は高かった。ところが最近、金利が大きく上がったぶん、債券の価格は安くなる。つまり、SVBは安値で債券を売却しなければならないだけでなく、含み損を抱えることになった。まさに泣きっ面に蜂である。

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急いで引き出す必要はないのに…