「今のままじゃダメだ」という強迫観念に女性たちは縛られている。自分の顔を好きになりたいと思っていても、社会がそうさせてくれない空気もある。画一的な美を女が強迫観念のように内面化してしまうのも、女性の価値を美に収斂しようとする一種のミソジニーなのだ!とフェミニストはそう言うが、そう頭でわかっていたとしても、ほうれいせんが深いとか、眉間のシワをなんとかしたいとか、目の下のクマが気にくわないとか、そうやって鏡で自分にダメ出ししてしまう私もいる。なかなかに、このミソジニーから脱皮するのは難しい。そして、この種のミソジニーは、美容業界の発展とともに、より深まっていっているのかもしれない。「私はかわいくなりましたか?」と、初対面の看護師に確認するくらいに、“私たち”は追いつめられているのかもしれない。

 もし私が、今20代だったら、どうしただろうとも思う。私が若い頃ももちろん美容整形をする友人はいたが、注射1本で鼻が高くなるような施術もなかったし、レーザーなどで肌が引き締まるとか、肌が白くなるとか、そういうハードルの低さは美容整形にはなかった。でも今は、そういう選択肢が目の前にある。日本でも今は月々2000円のローンを組めば二重になれる、鼻が高くなる、顎が細くなる、美肌になれる……など、ありとあらゆることが選び放題な世界だ。そうやって苛烈な美容業界は淡々と、選択肢はありますよ、さぁどうします?と私たちに「選ばせよう」とする。資本主義は容赦なく、私たちに「新しい私」を買わせようとする。いくらの化粧水を使うか、月に何度髪の毛を染めるか、マスカラを何本持つか、新しいアイシャドーをいくつ買うか、美白クリームにいくらまで出すか……そんな選択の山を、私たちはサバイブしている。

 久しぶりに韓国行こう、美容の旅にしよう!な、気軽な旅ではあった。私が打った皮膚レーザーの結果は1カ月後に出るというので、それは楽しみだし、出てもらわなくちゃ困る、という思いではいる。それでも、友人から聞いた若い女性の言葉が、耳から離れない。「私はかわいくなりましたか?」。なぜか、とても悲しい。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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