上弦の鬼の中で、童磨より唯一上位にいる上弦の壱(=1)・黒死牟は、直接的には猗窩座を注意し、間接的には童磨の猗窩座に対する言動を制止していた。

「猗窩座… お前は… 度が過ぎる…」

「猗窩座 私の…言いたいことは… わかったか…」(黒死牟/12巻・第98話「上弦集結」)

 この段階で、猗窩座は童磨と戦えるほどの実力はない。黒死牟の言葉は、その事実を猗窩座に暗に伝えて、現時点では無意味でしかない「上弦の弐と参の争い」を止めている。

■童磨を“嫌う”猗窩座

 猗窩座は自分よりも下位にいる、玉壺と半天狗には見向きもしないが、黒死牟と童磨には、殺気に満ちた態度を取っている。この理由は単純なもので、猗窩座が「武の高みを目指す」タイプの鬼だからだろう。しかし、よく見てみると、猗窩座は童磨に対しては、不快感をよりはっきりと示している。猗窩座が童磨に激しい怒りの表情を見せたのは、童磨のこのセリフを聞いた時だった。

「前よりも少し強くなったかな?猗窩座殿」

「猗窩座殿は我らに勝てまいが 加えて俺に至っては 猗窩座殿よりも後で鬼となり 早く出世したのだから 彼も内心穏やかではあるまい!」(童磨/12巻・第98話「上弦集結」)

 童磨は猗窩座が自分よりも弱いことを、単に実力差として示すのではなく、わざわざ「言葉」で強調した。強くなることに執着し、弱さを厭う(いとう)猗窩座にとって腹の立つ言動だったはずだ。

■童磨と猗窩座のちがい

 上弦会議の童磨と猗窩座は、きわめて対照的だった。無口な猗窩座、おしゃべりな童磨。無表情な猗窩座と、笑顔をたやさない童磨。あおる童磨と、ムキになる猗窩座。挑発を受けた猗窩座は、無限城で、2度も童磨の顔にこぶしをたたき込んでいる。1度目はアゴを飛ばし、2度目はアゴよりも上部を破壊して、黒死牟に止められていた。一方、童磨は殴られることすら「わざと」であり、あえて挑発的な言動を繰り返す。

 さらに童磨と猗窩座の価値観が決定的に合わないことを示す、童磨のこんなセリフがある。

「猗窩座殿って 絶対女を喰わなかったからさあ 俺言ったんだよ! 女は腹の中で赤ん坊を育てられるぐらい栄養分を持ってるんだから 女を沢山 食べた方が早く強くなれるって」(童磨/18巻・第157話「舞い戻る魂」)

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鬼の顔に浮かぶ「優しさ」と「狂気」