少子高齢化、働き方改革、グローバル化、医療情報の氾濫…。コロナ禍以降、それまで緩やかだった社会状況の変化が加速している。今後数十年の医師と医療のあり方にも少なくない影響を与えそうだが、どう対応していけばいいのだろうか。発売中の週刊朝日MOOK「医者と医学部がわかる2023」の巻頭特集「医師と医療の未来を考える」を、2回に分けてお届けする。後編では、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客乗員を受け入れ、新型コロナ対応に尽力した藤田医科大(愛知県)の学長・湯澤由紀夫医師と、医師が発信する医療情報サイト「Lumedia(ルメディア)」を立ち上げた日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授・部長の勝俣範之医師に話を聞いた。

【ランキング】歴史で振り返る!医師国家試験合格ランキング(全16ページ)

前編<「すべての医学部が生き残れるとは思えない」 東京医科歯科大・前学長が語る「東工大との統合」の意義>より続く

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◆臨床の最前線でも世界への発信を意識する

 大学が世界レベルで躍進するにはどうしたらいいか――。ある私立大医学部の関係者は「国立大の統合はありだと思う。一方、私立大の場合は各校に建学の精神がある以上、それは難しい」と話す。

 私立が国公立と大きく違うのは建学の経緯。創立者の思いや理念が色濃く表れているという点だ。研究に重きを置く医学部もあれば、臨床を重視する医学部もある。特色を出して魅力を高める点ではやりがいがあるが、一方で、自分たちの力で立って力を伸ばしていかなければ、学生が集まらず死活問題になる。

 先のTHE世界大学ランキングで国内上位にいるのが、愛知県豊明市にある藤田医科大だ。医学部が設置されて今年度で50年になる。藤田医科大というと、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まった2020年2月、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客乗員128人の受け入れをしたことが記憶に新しい。学長の湯澤由紀夫医師はこう振り返る。

藤田医科大岡崎医療センターに到着した、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客乗員を乗せたバス(上)、受け入れの準備をする看護師(藤田医科大提供)
藤田医科大岡崎医療センターに到着した、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗客乗員を乗せたバス(上)、受け入れの準備をする看護師(藤田医科大提供)
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「当時は新興感染症として新型コロナの情報がほとんどないなか、受け入れにあたって中心的な役割を果たしたのが、感染症科のチームでした」

 今でこそゾーニングという言葉は聞き慣れたが、当時はどう区域分けをするか、スタッフの動線やPCR検査のために採取した検体をどう扱うかなど、未知の部分が多かった。こうした問題を明らかにし、乗客乗員だけでなく、スタッフの安全を確保するためにチームは奔走した。

 なぜ今この話を持ち出すかというと、「世界に発信することの重要性を痛感する場面に遭遇した」(湯澤医師)からだ。

 当時、司令塔となったのが、同科の土井洋平医師だった。現在も同大病院と米ピッツバーグ大医学部感染症内科とを兼務している土井医師は、過去にCDC(米疾病対策センター)とも仕事をした経験があった。乗客乗員を受け入れた際には、日本・アメリカ間で頻繁にミーティングを行い、最新の情報・状況を共有、対策に活用していった。

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